本日のインプット:FRBの金融安定報告書

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/11/20 | 重見 吉徳

ブログを出すのが少し遅れましたが、米連邦準備制度理事会(FRB)は、11月15日(先週金曜日)に、毎年5月と11月に発行するFinancial Stability Report(金融安定報告書)の最新版を公表しました。

冒頭の「Overview(概観;p9-10)」を、要約すると次のとおりです。

  • 資産価格のバリュエーション:いくつかの市場では、インカム(利息や利益、キャッシュフロー)と比べた資産価格が高い状態が続いている。しかしながら、長期金利の低水準を考慮すると、過去対比では、より標準並みと言えよう。①企業債権でも信用力がより劣るもの、②商業用不動産、そして、③農地を除けば、2017年や2018年に比べ、投資家のリスクテイクが減っていることを示唆する。
  • 企業や家計の借り入れ:企業債務は、GDP比で見て、歴史的な高水準である。債務の急速な増加の大部分は、最もリスクが高い企業に集中している。一方で、こうした企業に対する貸出基準は緩んでいる。対照的に、家計の借り入れは、所得対比で見れば、中程度である。信用力が低い家計の債務総額も、横ばいが続いている。
  • 金融セクターのレバレッジ:大手行の資本基盤は強固である。証券会社のレバレッジは、歴史的に見て、低水準である。しかしながら、いくつかの大手行は、予防的に積み上げた資本を取り崩す計画を公表している。生命保険会社のレバレッジは、中程度である。ヘッジファンドのレバレッジは、過去5年に比べ、高止まりしている。
  • ファンディング・リスク:ノンバンクを含む金融システム全体の資金調達源のうち、取り付けに対して最も脆弱な部類の債務残高は、中程度を維持している。短期のホールセールファンディングが占める割合は、他の負債に比べれば、低い。総資産に対する、適格流動資産(信用力と流動性の高い資産)の割合は、大手行では高い。


チャートを一部だけご紹介します。

まずは、実体経済の大きさ対比で見た「与信残高」です。企業向けの与信・GDP比率【赤色】は、世界金融危機前の水準に迫っています。敢えて、家計【黒色】と企業【赤色】を比べれば、企業の信用をより注意深く見る必要がありそうです。

出所:FRB、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年11月15日時点で取得可能な最新のものを掲載。


次に、その企業の借り入れのうち、信用力の低いものを見ると、特に、2017年以降は、ハイ・イールド債券【黄色】よりも、レバレッジド・ローン【青色】の発行金額が大きいことがわかります。

出所:FRB、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年11月15日時点で取得可能な最新のものを掲載。


そして、最近において発行金額が大きいレバレッジド・ローンを見ると、債務返済の原資となる利益(≒キャッシュフロー)対比で、借り入れが大きい企業による発行割合が高まっていることがわかります。

出所:FRB、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年11月15日時点で取得可能な最新のものを掲載。


しかしながら、今のところ、レバレッジド・ローンのデフォルト率は低いままです。

出所:FRB、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年11月15日時点で取得可能な最新のものを掲載。


最後に、重要な指摘を拾っておきます。

"Low interest rates may also increase risk-taking among some financial institutions. In addition to the pressures on banks and insurance companies, low interest rates could affect pension funds and other institutional investors who offer pre-specified returns for policyholders that are significantly higher than the general level of interest rates. In order to meet the specified yield, these asset managers may hold riskier investment portfolios, which are expected to generate higher returns. Furthermore, this decision could artificially increase the price of risky assets.
While vulnerabilities related to low interest rates have the potential to grow, thus calling for caution and continued monitoring, so far, the financial system appears resilient."

低金利は、いくつかの金融機関に、リスクテイクを促す可能性がある。銀行や保険会社に対する(収益の)プレッシャーに加えて、低金利は、年金基金やその他の機関投資家の行動に影響を与える可能性がある。特に、そうした機関のうち、年金受給者などの受益者に対して、現行の金利水準よりもかなり高い利回りを確約している機関はそうである。目的となる利回りを達成するために、これらの機関やそこから運用を受託している運用者は、期待リターンがより高く、ゆえにリスクもより高いポートフォリオを保有する可能性があるだろう。さらに、こうした投資判断は、リスク資産の価格を人為的に押し上げうる。
低金利に派生する脆弱性は今後、増大する余地があり、警戒と注視が必要だが、今までのところ、金融システムは頑健であるように見える。