“強いはず”の労働市場が発する景気後退のサイン

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/7/31 | 前川 将吾

“強いはず”の労働市場が発する景気後退のサイン

今月5日に発表された5月の景気動向指数で、景気の基調判断が「悪化」から「下げ止まり」へと上方修正されたことなどもあり、日本の景気後退への懸念が一旦収まっているように思われます。しかし筆者は、引き続き日本の景気後退入りへの警戒が解けない状況が続くと考えています。そのように考える理由の1つは、多くの金融市場関係者が日本の景気が堅調に推移するための「頼みの綱」と見ている労働市場で、景気後退入りのサインが点灯したからです。

具体的には、昨日発表された有効求人倍率の動向が気がかりです。筆者は今年の3月に「増収・減益は景気後退のサイン?」というブログで、「日本の大企業の増収・減益が発生し、景気後退が訪れる前後では、(2012年を除いて)有効求人倍率が低下傾向にある」と指摘しましたが、まさにその有効求人倍率が低下し始めています

6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.61倍で、これは4月の1.63倍をピークに、2ヵ月連続で前月比0.01ポイント低下しています。ここで問題になるのは、この指標を「水準で評価するか、変化で評価するか」ということです。なぜならば、前者の水準を重視するのであれば「日本の労働市場は非常に強い」と考えられますが、後者の変化を重視するのであれば、「労働市場は弱くなり始めている」と考えられ、解釈が異なるからです。

筆者は、変化のほうを重視すべきだと考えています。ここで【図1】を見てください。過去は、有効求人倍率がかなり高い水準にあったとしても、一旦下がり始めると景気後退(網掛け部分)に入っていることが確認できます。また、【図2】の有効求人倍率の「前年同月差」と景気後退の関係をみると、足元の鈍化傾向がより鮮明になります。6月は、この「前年同月差」が0ポイントまで低下していますが(→つまり、2018年6月の値も1.61倍だった)、【図2】の赤い丸で示している通り、過去はプラスから0以下に転じる前後に必ず景気後退が訪れていたことがわかります。

出所:内閣府、厚生労働省、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年7月31日時点で取得可能な最新のものを掲載。



出所:内閣府、厚生労働省、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年7月31日時点で取得可能な最新のものを掲載。



引き続き、年後半の日本の景気悪化と株安を警戒

足元が日本の景気後退を警戒すべき局面ということであれば、当然、日本株が下落するリスクも考慮しておきたいところです。【図3】の赤い線は、有効求人倍率の「前年同月差」がプラスから0ポイント以下に転じた時点を示しており、緑色の線はTOPIXの動向を見ています。

日本経済が高成長を続け、日本株も右肩上がりで推移した1980年代までは、赤い線や景気後退(網掛け部分)の前後でも日本株は底堅く推移しましたが、1990年代以降は、株価が低迷する傾向が見られます。【図4】は、1990年代以降で、有効求人倍率の「前年差」がプラスから0以下に転じた時点から2年間のTOPIXの価格リターンを示していますが、直近4回すべての局面で株価が大幅に下落しています。

出所:(すべて)東京証券取引所、内閣府、厚生労働省、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年7月31日時点で取得可能な最新のものを掲載。
過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。


以上の過去の経験則を踏まえれば、今後日本経済や株式にとっての不安要素を考える場合は、従来の海外経済の減速だけではなく、国内の労働市場の悪化やそれに伴う内需の低迷にも十分留意しておくべきでしょう。仮に、世界景気の回復が更に後ズレし、そのような状況下で10月の消費増税を迎えた場合、国内外の経済の悪化が鮮明となり、日本株も年後半に下落する可能性があると見ています。