対中関税『第4弾』に関わらず、年後半の世界景気は強くない?②

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/5/27 | 前川 将吾

「対中関税『第4弾』に関わらず、年後半の世界景気は強くない?①」からの続きです。)


【中国経済の底割れは防げても、“世界景気の救世主”になれる可能性は低い】

「G20後に米中の対立は一旦収まる」という前回からのブログの前提の下では、米国経済の見通しとは対照的に、中国経済に対する懸念はそれほど強くないと考えています。そして、そのように考える主な理由として、またしても「金融政策とその影響のラグ」が登場します。

はじめに、【図5】を見て下さい。ここでは、【赤色】の中国のクレジット・インパルス(→GDPに対する与信の伸び率の変化)が、【紫色】の中国の製造業景況感に10ヵ月ほど先行していることや、そのクレジット・インパルスが少しですが反転していることがわかります。この両者の先行・遅行関係は、やはり中国でも金融政策が実体経済に与える影響に遅れが生じることを示唆していますが、直近でクレジット・インパルスが反転した背景には、中国人民銀行(PBOC)の預金準備率の引き下げなどがあると見ています。(→昨年FRBが利上げを続けたのとは対照的に、PBOCは昨年の春頃から金融緩和を進めてきました。そして、その効果がこれからやっと、少しずつ出始めることが期待されます)

ただし筆者は、現時点の金融緩和の規模では、世界景気をけん引できるほど力強い中国景気の加速は見られないと考えています。では、これからPBOCが追加で大規模な緩和策をどんどん打ち出してくれるのかというと、それもあまり期待できないでしょう。その証拠に、例えば今月17日にPBOCが公表した四半期金融政策実施報告書では、「構造的なレバレッジ解消を進める」という、前回報告で削除されていた文言が再び登場しています。これは、PBOCが債務関連のリスク削減に改めて重点を置いていること、更に言えば、「景気の底割れは防ぐが、景気の力強い加速まで高望みはしない」ということを示唆していると考えられます。以上の点を踏まえると、今後はかつてのように大規模ではなく、的を絞った刺激策が出てくる可能性が高いと言えるでしょう。(→貿易戦争の激化が止まらなければ、景気の底割れを防ぐべく、大規模な金融緩和策が出る可能性が高まるでしょう)

なお、中国経済が緩やかに持ち直したとしても、米国経済の減速が続いてしまうと、日本の対中輸出などの回復が鈍くなるリスクがあります。【図6】では、【青色】で米国のISM製造業景況感指数、【赤色】で日本の対中輸出の伸びを示しており、その連動性が高いことがわかります。これはまさに、米中貿易摩擦に関連して取り上げられる「サプライチェーン」の仕組みをあらわしていると言えるでしょう。つまり、日本の中国向けの輸出品の多くは、中国で組み立てられ、米国に再び輸出されているため、最終需要地である米国の景気が冴えなければ、中国の対米輸出も日本の対中輸出も鈍いままとなるリスクがあると考えられます。

出所:(左)中国国家統計局、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management (右)米サプライマネジメント協会(ISM)、日本銀行、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:(左、右)「製造業景況感」は、50を超える場合、過半の企業が「自社の事業は前月に比べて拡大」と回答していることを示し、反対に50を下回る場合には、過半の企業が「自社の事業は前月に比べて縮小」と回答していることを示す。
データは2019年5月21日時点で取得可能な最新のものを掲載。


【景気見通しのまとめと投資方針への示唆】

これまでの米中経済の見通しを金融市場の見通しに落とし込むとすれば、以下のように短期と中期に分けて考えたほうが良いでしょう。

<短期:株価は戻りを試す可能性>
・米中貿易摩擦を巡るリスクがある程度金融市場に織り込まれた中、仮に米中首脳会談が開かれ、『第4弾』の関税引き上げも見送られれば、夏場にかけて株価は力強く反発する可能性がある。
・米国経済が減速基調となっても、その傾向が鮮明になり、投資家がそれを強く懸念するまで、しばらく時間がかかる可能性がある。
・以上の点を踏まえれば、短期的には、割安になった景気敏感セクターの株式などを買い増すことが検討できる***。

<中期:株価は再び下落する可能性>
・中期的には、株式市場はファンダメンタルズに回帰する。
・米国はこれから減速する可能性が高く、その減速に拍車をかけかねない企業債務の問題も存在している。一方、中国はこれから持ち直すかもしれないが、その“回復力”はそれほど強くないだろう。
・以上の点を踏まえれば、株式であれば高配当株式や連続増配株式、ディフェンシブセクターなどを選好し、同時に国債などの安全資産も組み入れた分散投資を徹底したい。

理想を言えば、今は短期の戦略を採用しつつ、適切なタイミングで中期の戦略に切り替える(≒株価の戻り高値で売り抜ける)ということになります。しかし、機動的かつ的確な切り替えは困難と考える中長期目線の投資家は、短期の機会損失には目をつむり、今から中期の目線で“慎重な投資”を継続することを検討したいところです。

***そもそもわれわれのメイン・シナリオとは異なり、米中の対立激化がこのまま止まらないと見る投資家は、慎重なポートフォリオを構築すべきでしょう。