Hazard!(危険!)①

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/4/24 | 重見 吉徳

金融市場では、リスクテイクが強まったり、取引のポジションが極端に傾いたりしています。

過去に従えば、こうした状況は長続きしません。日本の個人投資家は要注意です。

今日取り上げるのは「変動率・ボラティリティの低下に賭ける動き」です。それは再び、高まっているように見えます(→「再び」というか、これまで何度あったかわかりません)。


次の図は、シカゴ・オプション取引所(CBOE)に上場されているVIX先物とVIX先物オプションに関する、非商業部門(≒いわゆる投機筋)の建玉残高を見たものです(→未決済の買い持ちポジションの残高から、売り持ちポジションの残高を引いたもの)。

マイナスになっているのは、「売り持ち」が「買い持ち」を上回っているということを示し、非商業部門に関して言えば、「ボラティリティの低下に賭ける動きが優勢である」ことを示唆します。しかも、現在の水準は、昨年1月の『VIXショック』前の水準にまで拡大しています。

出所:CFTC、CBOE、S&P Dow Jones Indices, LLC、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。


「ボラティリティの低下に賭ける動きが優勢」ということは、「金融市場を揺るがすような、恐ろしいイベントは起きないはずだ。だからリスクを取ろう」といった具合に、リスクテイクの姿勢が強まっているということです(注)。逆に、金融市場の急落局面では、VIXなどの予想変動率・ボラティリティが高まります。VIXが『恐怖指数』と呼ばれる所以です。

加えて、パフォーマンスを競っている機関投資家が置かれた状況を考えれば、たとえ自分自身は株式相場の上昇に懐疑的でも、自分以外の他の投資家が「株式の買い」で儲かっていれば、自分も買わなければ負けてしまうといったチキン・ゲームが生じている可能性もあるでしょう。歌に喩えれば、植木等さんの『スーダラ節』のような状況です(→おわかりになりますか?)。

気を取り直して、VIXそのものを見てみましょう。投機筋の間では、ボラティリティの低下に賭ける動きは高まっているように見えるものの、VIXの水準は、2017年末に比べれば、まだ高いことがわかります。

出所:CBOE、S&P Dow Jones Indices, LLC、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。


合わせて、株価の水準を確認しておきましょう。S&P 500は、過去最高値を更新しました。VIXのポジションに偏りが見られる中、今後、VIXとS&P 500は上下どちらに向かう可能性が高いと考えられるでしょうか?

出所:S&P Dow Jones Indices, LLC、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。




次に、債券市場の変動性・ボラティリティを見てみましょう。MOVEは、BofA Securities(Bank of America Merrill Lynch)が算出する米国国債店頭オプションの予想変動率・ボラティリティです。

債券市場でも、変動性・ボラティリティは過去最低水準近くにまで低下しています。

出所:BofA Securities(Bank of America Merrill Lynch)、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。


合わせて、米国10年国債利回りの動きを確認しておきましょう。

FRBの利上げ観測が遠のき、長期金利は低下、低金利に乗じるような『金融相場』が続いています。

普通に考えれば、国債市場以外で異変が生じる場合には、米国国債が買われるでしょう(→国債金利は低下)。反対に、例えば、インフレ懸念や利上げ再開懸念などで、国債市場で異変が生じる場合には、米国国債が売られます(→国債金利は上昇)。この場合、これまで『金融相場』が続いている以上、金利上昇は、他の金融市場に悪影響を及ぼすと考えられます。

出所:Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。




最後に、為替市場の変動性・ボラティリティを見てみましょう。VXYは、弊社グループが算出するG7通貨の通貨オプションの予想変動率・ボラティリティです。

為替市場でも、変動性・ボラティリティは過去最低水準近くにまで低下しています。現在の水準は、1996年、2007年、2014年に達した水準ですが、過去を見ると、予想変動率は程なくして、上昇に転じています。

出所:J.P.Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。


合わせて、米ドルの動きを確認しておきましょう。

先ほど見たように、米ドル金利は低下していますが、ドルは堅調推移しています。

為替市場やその他の金融市場での異変は、更なるドル高か、ドル安のどちらにつながると考えられるでしょうか?

出所:J.P.Morgan、ICE、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月24日時点で取得可能な最新のものを掲載。


明日に、第2弾のエントリーを書きますが、それまでに、変動性が高まらないことを祈ります。




注:

為替市場(例えば、証拠金取引)を考えると、高金利の米ドルを買って、低金利の円を売ると、金利差(スワップ・ポイント)を稼ぐことができます。ドル円相場に「異変」(≒不利な円高)が起きなければ、金利差がまるまる得られます。言い換えれば、変動性が低ければ(円預金を持つことに比べれば、リスクがかなり高い取引から)収益が得られます。これは、オプション(≒ボラティリティ)を売っているのと同じ状況です。権利行使日までに何も起きなければ、オプション料が手に入ります。

逆に、低金利の円を買って、高金利のドルを売ると、時間との勝負です。最終的に、円高になって利益が得られたとしても、円高が生じるまでにかなりの時間がかかり、それまでに毎日支払った金利差(コスト;インカム・ロス)のほうが、利益(キャピタル・ゲイン)よりも大きくなると、時間=日々のコストに負けて、損をすることになります。これは、オプション(≒ボラティリティ)を買っているのと同じ状況です。権利行使日までに何も起きなければ、オプション料が「持ち出し」になります。

社債市場を考えると(→銀行が銀行勘定で取り組んでいる業務を説明しますが)、米ドルを借りてきて、高利回りの米国社債に投資するのと同じです。満期償還や途中売却時点までに、その社債や社債市場全体に「異変」(≒不利なスプレッドの拡大やデフォルト)が起きなければ、(調達金利と運用金利の)利回り差がまるまる得られます。逆に、社債を空売りし、空売りで得た資金をドル預金すると、時間との勝負になります。最終的に、社債価格の下落が訪れるとしても、その間、毎日毎日、利回り差(空売りした社債の利回り>ドル預金で得られる利息)を支払うポジションに耐えなければなりません。

こう考えれば、最近の短期金利の上昇によって、だんだんと社債を買うメリットが薄れていることもわかるでしょう。米ドルを調達して、社債などで運用しても、得られる利回り差(≒期待リターン)が小さくなっているために、クレジット市場の異変などによる下落(≒期待損失)を既に下回っている恐れがあります。