「割高感」と「楽観シナリオの織り込みのはやさ」を考慮した投資を

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/4/18 | 前川 将吾

【海外株式の割高感と日本株式のアウトパフォーム】

日本、米国、欧州、新興国株式の騰落率を比較した場合、日本株式は、年初から3月までの期間は最も低い上昇率だった一方、4月以降は最も高い上昇率となっています*。

日本株式の人気が4月以降高まっている背景の1つには、「好材料が確認できたので株式のエクスポージャーは増やしたいが、欧米や新興国の株式は割高なので、まだ割安感が残っている日本株式を買おう」というグローバルの投資家の行動があると考えられます。

実際に、例えば4月16日時点の予想株価収益率(PER、12ヵ月先)**をみると、米国株式は16.9倍、欧州株式は13.8倍、新興国株式は12.5倍で、いずれも過去15年平均よりも高い水準まで上昇しているほか、世界的な株価急落前の昨年9月末時点と同程度かそれ以上の水準に達しています。この点を踏まえれば、海外の株式市場は、もはや「割安感が解消されつつある局面」ではなく、「割高感が漂い始める局面」に入っていると言えるでしょう。

一方、日本株式の予想PERは12.8倍であり、これは過去15年平均や昨年9月末の水準を下回っているため、海外と比べれば割安感があると考えられます。 但し、日本株式も、予想1株あたり利益(EPS、12ヵ月先)が低下する中での株高が続いた結果、PERは切り上がり続けています。そして、このような「業績見通しの改善を伴わない株高」は、短期はともかく中期で見れば持続的でない点に注意が必要でしょう。

*日本株式は日経平均株価指数、米国株式はS&P500種株価指数(米ドル・ベース)、欧州株式はMSCIヨーロッパ株指数(ユーロ・ベース)、新興国株式はMSCI新興国株指数(現地通貨ベース)。4月の騰落率は16日まで。

**日本株式はTOPIX、米国株式はS&P 500種株価指数、欧州株式はMSCIヨーロッパ株指数、新興国株式はMSCI新興国株指数。データの出所はFactSet。

【投資家の楽観シナリオの織り込みがはやすぎる?】

「株式の割高化」とあわせて筆者が注目しているのは、世界経済の減速懸念が拭いきれない状況下で、「投資家が楽観シナリオを織り込む“タイミング”や“スピード”がはやすぎる」という点です(→もちろん、世界的な「株式の割高化」と密接な関係があります)。

以下では、この点について、(A)半導体売上高と米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)、(B)世界の製造業景況感と日本株式(TOPIX)、(C)同じく製造業景況感とVIX指数の3つのケースを紹介します。

(A)半導体売上高とSOX指数のケース

まずは、「産業のコメ」と言われる半導体の銘柄で構成され、最近の相場のけん引役にもなっているSOX指数の動向を見てみましょう。なお、同指数の動向は、翌営業日の日本株式市場の動向に大きな影響を及ぼすことがあります(代表例:年初来のTOPIXの業種別リターンのトップである電気機器セクター)。

はじめに、【図1】の【紫色】の全世界の半導体売上高(前年比)を見てください。1995年以降の歴史を見ると、売上高の前年比が2ヵ月以上マイナス圏で推移したことは今回を含めて7回あり、その期間は1年前後であることがわかります。 また、このような過去の経験則を踏まえて、「まだ半導体市況の底打ち感は無いが、今年1月に減収に転じたことを踏まえれば、今年の後半頃には回復に向かい、来年前後にはプラス成長に戻れるだろう」と見ている投資家が少なくないように思われます。

ここで筆者が注目したいのは、「本当に、年後半に半導体市況が持ち直すかどうかという“まだ分からない先のこと”」よりも、「直近数ヵ月で見られたSOX指数の異例の急上昇」(→投資家の異例の楽観姿勢)です。というのも、半導体の在庫や価格を巡る不透明感が未だ拭えない中、【緑色】のSOX指数は、昨年12月の安値から45%余りも上昇し、過去最高値を更新し続けているからです。

具体的に、今回のSOX指数の急上昇に関する異例な点を2つ挙げたいと思います。

①底値のタイミングのはやさが異例
仮に、今回の半導体低迷期の底値が昨年12月だった場合*、過去20年超の歴史の中で、「半導体売上高が減収に転じる前に、株価が底を打った初めての事例」となる。【赤い実線の矢印】で示す通り、市況低迷期におけるSOX指数の底値は、過去6回とも全て【網掛け部分】の減収期か、その後増収に転じたところに位置している。

②高値回復のはやさが異例
今回は、半導体売上高が減収に転じて間もないタイミングで、市況低迷前の高値を回復した。【赤い点線の矢印】で示す通り、過去6回の局面でSOX指数が市況低迷前の高値を更新したのは、早くても売上高が増収に転じる頃、遅ければ増収に転じた後である。

まとめると、どちらの特徴も、過去と比べて、投資家による半導体市況の楽観シナリオの織り込みがかなりはやいことを示唆しています。

*「仮に」としているのは、今後半導体市況が回復するまでの過程で、昨年12月の値を下回る可能性もあるため。


出所:フィラデルフィア証券取引所、米国半導体工業会(SIA)、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月17日時点で取得可能な最新のものを掲載。過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。


(B)世界の製造業景況感と日本株式のケース

続いて、世界景気と日本株式の動向を確認します。

まず、【図2】の【紫色】は、世界全体の製造業景況感をあらわすグローバル製造業PMIであり、同指標が低下傾向にある局面を【網掛け】しています。次に、【緑色】のTOPIXの動向を見ると、「世界の景気敏感株」であるだけに、やはり【網掛け部分】で大幅に下落してしまうことがわかります。

ここで注目したいのは、日本株式が下落基調から明確な上昇基調に移る転換点を示した【赤い矢印】の位置です。2000年以降に見られた過去5回の景気減速・低迷期は、どれも製造業PMIが底をつけた後に、株価の転換点が訪れています

しかし今回は、PMIの低下傾向がまだ終わらない中、株価は昨年12月を底に、はやくも上昇基調に転じた“可能性”があります。これは、“仮に”4月にもPMIが下げ止まり、世界景気の再加速が始まったとしても、株式市場がこのような楽観シナリオを織り込んだタイミングがかなり早かった(=既に景気加速の織り込みがだいぶ進んでいる可能性がある)ことを示唆しており、注意が必要です*。

*今回のブログの本題ではありませんが、われわれは、『終盤戦』に入った米国景気の減速が鮮明化することにより、今年の後半から来年にかけて、グローバル製造業PMIが現在よりも低い水準まで低下し、株価が再び下落するシナリオも警戒しています。


出所:東京証券取引所、J.P. Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:「世界全体の製造業景況感指数」は、J.P. Morgan Global Manufacturing PMI SA。PMIは、購買担当者景気指数を指し、50を超える場合には、過半の企業が「自社のビジネスは拡大」と回答していることを示し、反対に50を下回る場合には、過半の企業が「自社のビジネスは縮小」と回答していることを示す。
データは2019年4月17日時点で取得可能な最新のものを掲載。過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。


(C)世界の製造業景況感とVIX指数のケース

最後に、投資家心理を測る指標であり、恐怖指数とも呼ばれる米国株式の変動性指数(VIX)とグローバル製造業PMIのケースを見てみましょう。

まず、【図3】の【網掛け部分】の景気減速・低迷期を見ると、このような局面ではVIX指数が市場の不安心理の高まりを示す「20」を超えて上昇しやすい傾向があることがわかりますが、同時にそのような傾向がいつまで続いていたかにも注目です。

【赤い丸印】で示している通り、過去5回のうち4回(2012年以外)は、PMIが底をつけたときに「20」を上回っていることから、投資家の恐怖心は景気低迷の最終局面でも残っていたことがわかります。

一方、足元の状況を確認すると、少なくとも直近のデータが確認できる3月までPMIの低下傾向が続く中、VIX指数は昨年12月にピークをつけたあと低下基調に入り、「20」を大きく下回って推移しています。

以上の点を踏まえれば、①仮にPMIが今後も低下基調を辿るようであれば、そう遠くないうちに再びVIX指数が「20」を超えて上昇する可能性を警戒するべきで、②逆にPMIが反転上昇した場合でも、投資家がこの楽観シナリオをかなり早いタイミングで織り込み始めた点には留意したほうが良いと考えます。

出所:シカゴ・オプション取引所(CBOE)、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月17日時点で取得可能な最新のものを掲載。

【当面の投資戦略は?】

われわれは、今回ご紹介した「割高感」と「投資家の楽観シナリオの織り込みのはやさ」を踏まえれば、現在は、当面のアップサイドが限定的な一方、中長期で見た経済や金融市場のダウンサイドリスクは依然大きい状況にあると見ています。

以上の点を踏まえれば、①株式だけではなく国債なども含めた分散投資を徹底してリスクを抑制する、②上値が重いなら、値上がり益(キャピタルゲイン)よりも、配当収入や利息収入などのインカム収益を重視した運用を行うなどの対応を行うことで、『慎重に投資を続ける姿勢』をとりたいところです。