専門家に学ぶ:IMFは企業信用の増加と質に警鐘

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/4/17 | 重見 吉徳

筆者は「マーケットの専門家」でも何でもありません。ただ「知ったかぶり」をしているだけです。このブログでは引き続き、尊敬すべき専門家が見たり、考えたりしていることを、皆さんにお伝えします。


IMF(国際通貨基金)は引き続き、米国を中心とする企業の債務に警鐘を鳴らしています。企業債務に対する懸念は、IMFのみならず、既に幅広い国際機関や調査機関、投資家によって共有されています。ですから、皆さんもそれを知っておくべきと、筆者は考えています。

以下は、IMFが4月10日に公表した「国際金融安定性報告書 2019年4月『信用サイクルの成熟期における脆弱性』」の重要なポイント(英語版PDFの12-13ページ)を抽出したものです。英語版(要約と全体)はこちらから、日本語版(要約のみ)はこちらから得ることができます。

残念ながら、チャートは英語だけですが(→クリックで拡大すれば、クリアに見えます)、日本語の文章だけでも読んでください。日本語(抄訳)と下線は、引用者(重見)によるものです。恐れながら、抄訳は間違っている場合がありますので、ご注意ください。



1. 社債やローンの投資家層は、世界金融危機前に比べて、どう変化したか?

企業の資金調達ソースを見ると、金融市場での資金調達が、銀行借り入れによる資金調達に比べて、急速に拡大している。金融市場にストレスが生じる状況を考えると、銀行借り入れが主体の場合とは異なる影響が信用市場や金融市場全体にもたらされる可能性がある(→下掲の左図:『パネル1:非金融企業による負債残高』の【赤色部分】を参照)。

出所:国際通貨基金(IMF)、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月10日時点で取得可能な最新のものを掲載。

  • 米国の社債市場を見ると、ETF(注1)を含む投資信託の保有残高が2009年以降、倍増しており、2018年では市場全体の20%近くを保有している(→上掲の右図:『パネル2:社債市場の保有シェア』の【濃い青色の部分】を参照;左が投資適格、右がハイイールド債券)。これは、借り手の企業にとってみると(銀行借り入れが主体の場合に比べて)ストレス時における借り換えのリスクが高くなっていることを示唆している可能性がある。
    • 引用注:例えば、ETFや投資信託に投資をしている個人投資家がパニックに陥り、こうした市場から資金を一斉に引き上げ、資金の返済期限を迎えた企業が、新しい債券に借り換えができず、行き詰ってしまうリスクがある。
    • 注1:ETFは最終投資家に日次の流動性を提供する証券だが、流動性の低い資産を保有している可能性がある。この点は、2018年4月のGlobal Financial Stability Reportを参照されたい。
      • 引用注:ETFに投資する投資家にとって、ETFは売却したいときにいつでも売却できる仕組みを取っているものの、ETF自体は売却したいときに売却しづらい証券や債権に投資をしている場合がある。誰もが売却を急ごうとする局面ではそうした状況がより深刻になる。

  • 保険会社や年金基金は、社債市場での保有シェアが高い(→上掲の右図:『パネル2:社債市場の保有シェア』の【濃い緑色と黄色の部分】を参照)。一般に、保険会社や年金基金は、安定した投資家であるものの、格付けの制約を有している
    • 引用注:例えば、ある投資適格級の社債が投機的格付けに「格下げ」される場合には、(投資先を投資適格級に限定する)内部の運用管理ルールに従って、格下げされた社債を強制売却する必要に迫られ、そうした債券に、新たな買い手が見つからない恐れがある。
  • 米国の社債市場では、外国の投資家の保有シェアが、25%から30%に上昇している。外国の投資家は、例えば、為替ヘッジコストの上昇や投資先企業の格下げによって、保有残高を調整する可能性がある。
  • 米国のレバレッジド・ローン(≒ハイイールド・ローン)市場では、銀行の保有シェアが、わずか8%にまで低下している。ただし、レバレッジド・ローンを束ねたCLO(ローン担保証券)の銀行保有シェアは、47%から60%に上昇している。




2. 社債やローンなどの債務を負う企業の信用力は、世界金融危機時に比べて、どうか?

社債を発行する企業は、2007-2009年の世界金融危機時に比べ、負債比率が高くなっている。

  • 信用市場全体に占める投機的格付けの割合(=ハイイールド債券とレバレッジド・ローンの合計)は、2007年の31%から2018年の25%に低下している。2018年時点で、米国ではGDP比12%、ユーロ圏はGDP比3%である。
  • 一方、投資適格級の社債市場では、(投機的格付けの一歩手前である)トリプルB格の債券残高が、世界金融危機以降、4倍に増えている(→下掲の左図:『パネル3:トリプルB格社債の発行残高・割合』の【緑の影部分;右軸】を参照)。
  • トリプルB格債券増加の背景は、①既往のトリプルB格社債発行企業による追加発行、②シングルA格以上からの格下げ、③新規のトリプルB格企業による発行である(→下掲の右図:『パネル4:トリプルB格社債の’09年~’18年の変化』を参照)。
  • 出所:国際通貨基金(IMF)、J.P. Morgan Asset Management
    データは2019年4月10日時点で取得可能な最新のものを掲載。

  • 投資適格企業の債務返済能力は改善しているが、負債比率は上昇している(→下掲の左図:『パネル5:トリプルB格企業の財務(’07年と比較)』の【Gross Leverage, Net Leverage, Share of Companies with >4x Leverage】を参照)。
  • 米国のレバレッジド・ローン市場は、急速に拡大し、その規模はハイイールド債券市場に迫っている。この背景は、①新規の企業によるローン借り入れと、②ハイイールド債券を発行していた企業によるローンでの借り入れによる。通常、債券は、ローンに比べ、発行条件がより厳格で、なおかつ企業は社債発行後も従うべき義務をより多く持つため、投資家はより強固な保護を受ける。⇒逆に言えば、ローンは、債券に比べて、投資家は保護されにくい(→下掲の右図:『パネル6:レバレッジドローン市場の特性(’07年と比較)』の【Covenants Quality IndexやCovenant-Lite Share】を参照)。
  • 現在のレバレッジド・ローン市場は、①負債比率の高さ、②限られた流動性、③投資家保護の減少によって特徴づけられる

出所:国際通貨基金(IMF)、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年4月10日時点で取得可能な最新のものを掲載。

最後に、念のため、IMFがこれら6つのチャートにまとめて付している「出所(Sources)」と「脚注(Note)」を付けておきます。

Sources: Autonomous Research; Bank of America Merrill Lynch; Barclays; Bloomberg Finance L.P.; CEF Connect; EPFR Global; European Central Bank; Federal Reserve; Hedge Fund Research; ICE Bond Indices; Lipper; Moodys; SNL Financial; S&P LCD; and IMF staff estimates.
Note: In panel 2, “other” includes endowments, foundations, sovereign wealth funds, offshore funds, households, and bonds held by foreign entities. Panel 5 refers to nonfinancial issuers, with the exception of size (which includes financials). The sample is based on percentile ranks of quarterly data from 1997:Q1 through 2018:Q4. In panel 6, a higher score in the covenant quality index represents weaker covenant protection. EBITDA = earnings before interest, taxes, depreciation, and amortization; ETF = exchange-traded funds; HF = hedge funds; HY = high yield; IG = investment grade; P&C = property and casualty.