増収・減益は景気後退のサイン?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2019/3/8 | 前川 将吾

【日本の景気後退懸念が強まっている?】

昨日、景気動向指数が発表され、基調判断が「足踏みを示している」から「下方への局面変化を示している」へと引き下げられました。この背景としては、中国を中心とする世界景気の減速を反映し、既に輸出が低迷していることや、この悪影響が鉱工業生産などの経済指標にも及んでいることなどが挙げられるでしょう。また、今後は輸出や鉱工業生産に遅れて、これまで堅調だった設備投資が落ち込む可能性も意識され始めています。このような悪材料を踏まえて、「日本は既に景気後退局面に入っている、もしくは年内には景気後退入りする」との見方が徐々に広がっています。

このような見方は、主に外需・製造業の悪材料に注目しています。しかし、足元では、内需・非製造業も含む幅広い分野に関わる懸念材料が出てきている点に注意が必要です。筆者が特に警戒しているのは、先週末の法人企業統計で確認された、日本企業の“増収・減益”です(注:2018年10-12月期、全産業(除く金融保険業)、経常利益ベース。資本金10億円以上の大企業で見ても全規模で見ても、“増収・減益”)。

【“増収・減益”を警戒する理由】

【図1】をご覧ください。ここでは、1963年以降の日本の有効求人倍率(紫色)、景気後退期(網掛け部分)、大企業の“増収・減益”が発生したタイミング(赤色の矢印)を示していますが、この図からわかることは次の2点です。

①“増収・減益”が発生するのは、既に日本が景気後退入りしているか、遅くとも3四半期後までに景気後退が訪れているタイミングである(注:1990年と2011年はサイン点灯から3四半期後、2007年は2四半期後に景気後退入り)。言い換えれば、“増収・減益”のサインが点灯すると、必ずその前後に景気後退が訪れている

“増収・減益”が発生し、景気後退が訪れる前後では、(2012年を除いて)有効求人倍率が低下傾向にある


出所:財務省、内閣府、厚生労働省、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年3月6日時点で取得可能な最新のものを掲載。


この過去50年以上の歴史から得られる経験則などを踏まえ、筆者は日本が景気後退入りする(もしくは既に景気後退入りしている)ことを警戒していますが、そもそも上記の①や②の傾向が見られる背景としては、例えば以下のような経路が考えられます。

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景気が拡大する
⇒企業は売上高を伸ばすために雇用を増やす
⇒やがて、労働市場が過熱気味になり、人件費が上昇する(足元は、非正規社員などの賃金上昇圧力も強い)
⇒やがて、売上高の伸びを人件費などのコストの伸びが上回り、“増収・減益”が発生する
⇒“増収・減益”に直面した企業は、コスト管理を強化し始める。利益率や1人当たり売上高の改善を目指し、雇用の最適化(抑制)をはかる
⇒このような企業行動が広がれば、有効求人倍率が低下するなど労働市場は悪化し、景気後退が始まる(補足:このとき企業収益は、日本企業全体で見れば、“増収・減益”から“減収・減益”に転じる可能性が高い。さらに言えば、その後の景気回復の過程では、“減収・増益”、“増収・増益”へと変化していくと考えられる)
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ここで、足元の企業コストの動向を確認してみましょう。例えば【図2】では、企業が雇う人員が増加していることもあり、人件費が大幅に伸びていることがわかります。また【図3】を見ると、企業の支払利息等の伸びも、大企業は上向いていることがわかります。もちろん、超低金利の環境下で企業の借入金利子率は低下し続けていますが、過去数年は、大企業でも全規模でも固定負債の残高が増加していることなどがコスト増に繋がっています。

出所:財務省、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年3月6日時点で取得可能な最新のものを掲載。


以上をまとめると、なかなか実感は湧きませんが、日銀が推計する需給ギャップや金融ギャップがプラス圏で推移していることからもわかるように、足元の実体経済(労働市場など)や金融環境は過熱気味であり、これが“増収・減益”が発生する下地になっていると整理できるでしょう(注:重要な点として、景気や信用市場が過熱気味になった後の巻き戻しは想定以上にきつくなる傾向があり、景気後退に至る可能性も高い)。

もちろん、企業がコストの上昇を販売価格などに転嫁でき、それでも売上数量が落ちなければ問題は解決します。しかし、既に消費者態度指数が低下基調にある点や、10月に消費増税が控えている点を考慮すれば、特に最終消費財などは、売上数量の減少に起因する減収のリスクが高く、企業が十分な値上げに踏み切ることは困難と見ています。

なお、これまで確認してきた人件費をはじめとするコストの伸びは、製造業よりも非製造業のほうが深刻な問題になっています。ですから、冒頭で言及した通り、日本の景気や企業業績が更に悪化するリスクの芽は、中国や為替などの影響を受ける外需・製造業関連だけでなく、内需・サービス関連の業種にも存在していると考えるべきでしょう。

【株式市場の見通し】

年初来で見ると、日本株はPER(株価収益率)主導・期待先行の株高が続いてきました。その背景としては、①昨年末の株価急落で割安感があった、②米連邦準備理事会(FRB)がハト派姿勢に転じた、③米中貿易交渉で合意に至る可能性が高まった、④中国の景気刺激策が好感されたなどが挙げられるでしょう。そして短期的には、この延長線上でもう一段の上昇があってもおかしくないと見ています。しかし、今回ご紹介した景気後退入りの可能性などを考慮すれば、中期的には実体経済の更なる悪化に起因する株価下落が生じるリスクを警戒すべきと考えており、今後は既に上がりにくくなっている有効求人倍率が低下に転じるかなどを注視したいところです。

なお、株式市場のファンダメンタルズに関するデータでも、日本企業の“増収・減益”や利益率の悪化を示唆する動きが確認できます。【図4】では、TOPIXの2019年度の予想1株あたり売上高(SPS)と予想1株あたり利益(EPS)の推移を、昨年6月末=100として示しています。ご覧の通り、予想SPSが底堅く推移している一方で予想EPSは下方修正がきつく、やはりここでも利益率の悪化、つまり「景気の過熱とその巻き戻しが起こるサイン」が確認されています。

同様の傾向は、【図5】の米国株式でも見られます。S&P 500でも、2019年(暦年)の予想SPSが堅調に推移する一方、予想EPSは切り下がっています。このような特徴は、やはり米国景気が過熱した後に景気後退入りする前の2001年や2007~2008年頃に見られています。実際、足元では、米国の株式市場参加者の多くが企業の利益率の悪化を懸念しています。また、米国の実体経済に目を向けると、日本と同様に米国の労働市場も過熱気味であり、需給ギャップもプラス圏で推移していると考えられます。今週発表された最新の地区連銀経済報告(ベージュブック)を見ても、多くの地区で、販売価格を上回るペースで投入価格が上昇しているとの指摘が見られています(注:人件費や物流費などだけでなく、一部は追加関税の影響もあると考えられる)。これらの点を踏まえれば、日本と同様に、米国の景気拡大も終盤戦に入っている可能性が高いと言えるでしょう。

出所:(左)東京証券取引所、I/B/E/S、Datastream、J.P. Morgan Asset Management  (右)S&P Dow Jones Indices LLC、FactSet、J.P. Morgan Asset Management
データは2019年3月6日時点で取得可能な最新のものを掲載。