ポピュリズムと景気サイクルの不都合な一致

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/12/19 | 重見 吉徳

もしかしたら、FRBにとっての最善の選択肢は(12月は別としても)利上げを様子見することかもしれません。

ここで、「最善」とは何かが、問題になりますが、一義的には、 以前 にも述べたように、「パウエル議長の考え」が挙げられます。議長は「現状の政策金利と均衡利子率、現状の失業率と自失業率の位置関係については不確実性がある」、「そうした不確実性があり、なおかつ、インフレ期待がおそらくアンカーされている現状においては、中央銀行は慎重に行動するほうがよいだろう」(→『ブレイナードの保守主義』)との考えを持っています。

また、副次的には、利上げで労働市場をクールダウンさせる前に、一部の金融市場が大幅な調整に見舞われる恐れがあります。これは、「いつもの光景」と言ってよいでしょう。そして、金融市場の大幅な調整は、景気後退のきっかけとなるでしょう。

おそらく多くの方が同意されると思いますが、一本の政策金利で、資産市場と実物市場の両方を均衡させようとしても難しく、それぞれの均衡点に対応する政策金利の水準は異なるはずです。

「行き」(=金融緩和のプロセス)では、実体経済の回復を待っている間に、資産市場のブームが生じてしまいます。ゆえに、「帰り」(=金融引き締めのプロセス)では、労働需要や物価の抑制を試みている途上で、資産市場のブームが崩壊してしまいます。

あるいは、ラリー・サマーズ元米財務長官やラグラム・ラジャン元インド中銀総裁も強調するように、「資産市場のブームなくしては、景気の回復が生じない状況が続いている」と言えるかもしれません。

出所:米連邦準備制度理事会(FRB)、米経済分析局(BEA)、米労働統計局(BLS)、米連邦住宅局(FHA)、S&P Dow Jones Indices, LLC、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2018年12月19日時点で取得可能な最新のものを掲載。


もちろん、金融政策を今、様子見すれば、ブームの再開と現在よりも深刻な調整を助長すると考える方もいらっしゃると思います。

筆者には、もはや何もしなくても、これまでの資産市場のブームや企業債務の蓄積、(失業率などに見られる)景気拡大の成熟、FRBによる金融引き締め(政策金利の引き上げとバランスシートの縮小)によって、株式市場も実体経済も自律的にスローダウンしている(そして、スローダウンしていく)ように思えます。



しかしながら、たとえ、FRBにとっての最善の選択肢が「様子見」としても、その選択肢は取れない恐れがあります。

なぜなら、トランプ大統領が「利上げをするな」と言っているためです。

パウエル議長は、利上げを休止する際には、「経済情勢に鑑みた、独立した判断」と強調するでしょうが、トランプ大統領は「あいつは俺の言うことを聞いた」と言いかねません。「利上げの休止が政権への配慮」と思われれば、債券市場は規律を失います。

「深読みだ」と思われるかもしれませんが、金融市場にとって大事なのは「きっかけ」であり、「きっかけ」の多くは「合理的な根拠」ではなく、「(合理的に見せかけた)言いがかり」のようなものです。そして、最近の金融市場は、以前よりも神経質に(=脆弱な状態に)なっているように見えます。

言い換えれば、「トランプ大統領のポピュリズム」と「景気循環と金融政策の1サイクル」が一致しようとしています。これら2つは、トランプ大統領がポピュリズムを取り下げない限り、いつかは必ず出会いますし、そのときは近づいています。

FRBの金融政策は、その独立性について、これまでよりも余分な強調を迫られるように思えます。

2019年の論点①として 「Fedの利上げ」 を、論点②として 「バランスシート政策」 を挙げましたが、このどちらもトランプ大統領との不必要な摩擦を抱えます。

後者については、財務省がT-billの発行を増大させることで、短期金融市場の資金がひっ迫しつつあります。また、連邦政府の債務残高は第2次大戦直後の水準です。

FRBがバランスシートの縮小を止め、国債を買い始める=資金の供給を再開する場合も、同様の疑義を持たれるかもしれません。しかし、誰かが、『双子の赤字』を抱える米国の国債を引き受けなくてはなりません。