"This time" is which time?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/12/10 | 重見 吉徳

「今回は違う(This time is different)」との考えは、金融市場では避けられるべきですが、「今回」が、「89年型・00年型・06年型」なのか、「87年型・98年型・15年型」なのかで、変わるため、弱気派は最後まで気が抜けません。


FRBは、遠くない将来に、金融政策を、これまでの「段階的な利上げ継続」から、今後は「データ次第」へと、変更しようとしています。筆者は、早期の「一時停止」を見ています。

まず、FRBには、どのような「認知」と「政策対応」が考えられるか、整理してみましょう。

  1. 判断:雇用やインフレが減速⇒実体経済にとって引き締めは「行き過ぎ」の恐れ⇒対応:利上げ打ち止め
  2. 判断:賃金は上昇、インフレは横ばい⇒生産性も上昇、よって賃金上昇がインフレにつながらず(90年代終盤)、実体経済にとって引き締めはちょうど良い⇒対応:利上げ様子見
  3. 判断:賃金は上昇、インフレは横ばい⇒生産性は横ばい、よってインフレ懸念・企業マージン圧迫懸念、実体経済にとって引き締めは「不足」⇒対応:利上げ継続

おそらく現時点で「上記1(雇用が減速)」の観察や判断は考えにくいでしょう。「上記2(生産性上昇)」を見込むのも「淡い期待」のようで、確率は高くないように思えます。おそらく「上記3(雇用は堅調)」と判断する確率が高いように思えます。

ここで、仮に、FRBの判断が「上記3」、すなわち「利上げ継続」だとすれば、金融市場はどうなるでしょうか。

これは、最も重要かつ、直観でしかない部分ですが、金融市場は「利上げ継続」にはとても耐えられないように思われます。また、最近の状況は、その兆しのように思えます。

よりシンプルに言えば、「現在の政策金利は、労働市場や実体経済にとってはまだ高くはないが、金融市場にとっては高い」ように思えます。

ではなぜ「現在の政策金利が、金融市場にとって高いか」と問えば、「資産価格や債務が、持続不可能なほどに上昇・増大し、金融市場が不安定になっているため」でしょうし、そうした状況を作り出したのは「かつての金融緩和が、金融市場にとっては、過剰であった」と導けるでしょう。

もちろん、最近の投資家心理の悪化は、利上げだけでなく、米中貿易戦争や欧州情勢への不安もあるでしょう。しかし、そうした不確実性に、利上げ継続の確実性が加わるとき、投資家心理の悪化は、より確実なものになるでしょう。


FRBのパウエル議長は、労働市場に関する「上記1、2、3」の見極めについて、不確実性が伴うため、簡単ではないとの立場のようです。一方で、過去の景気後退には、労働市場の不均衡というよりも、金融市場の不均衡がむしろ影響を与えていると考えているようです。これは、「上記3(利上げ継続)」の行き先とも関連しているように思えます。

まとめれば、「上記1(雇用が減速)」では「利上げが打ち止め」、「上記2(生産性上昇)」では「一時停止」、「上記3(雇用は堅調)」では「金融市場が早晩耐えられない状況に陥る可能性がある」となり、どれかの見極めに不確実性があるならば、「利上げは一時停止をして様子見する」ことが結論となるように思えます。

もちろん、利上げによって、労働力やその他の財への需要を持続可能な水準にコントロールすること≒物価の安定こそが、中央銀行の役割であり、景気の拡大を持続させるために必要との考えもあるでしょう。しかし、労働・財市場と、金融市場の2つのバランスが、政策金利一本で同時に調整できるとは限りません。多くの方は、

  • 実体経済を刺激するための金融緩和が、金融市場を過剰に刺激してきた(→資産価格の上昇だけでなく、債務の増加とM&Aや自社株買いなどのフィナンシャル・エンジニアリングを含む)
  • 利上げによって物価の安定を目指す途上で、金融市場が先に大幅な調整を迫られる
  • 金融市場が大きな調整を経験すれば、景気後退に向かう

ことに、同意をするのではないでしょうか。だとすれば、現在の賃金上昇率の伸びが今後さらに高まり、(今はむしろ鈍化している)インフレ率の上昇に波及し、人々のインフレ期待がアンカーされなくなるほどにまで影響を与えることを現時点で予見して、利上げを継続するよりも、金融市場の大幅な調整を避けるために利上げを一時停止することも選択肢に十分に入るでしょう。FRBが、今は必ずしも判然としていない物価上昇の圧力と戦うために、金融市場の大幅調整を許容するとは限りません

もちろん、「もうすでに弱気相場入りをしているため、利上げを一時停止しようとも、早晩大幅な調整が避けられない」と考える人もいるかもしれません。もしくは、「早めに利上げを打ち止めしたら、FRBは、事態がそれほど深刻だと考えていると受け取られかねず、かえって逆効果になる」と考える人もいるでしょう。しかし、FRBが、我々よりも多くの情報を持っているとは限りませんし、現時点で政策スタンスを「データ次第」に変更することに違和感はないでしょう。

あるいは、「たとえ利上げがまもなく一時停止されても、金融市場はどのみち大きな調整を免れない」ようにも思えます。当座の大幅調整が避けられるとしても、いつかは、インフレや利上げ再開があり、やがて利上げは打ち止め、金融市場の大幅調整と景気後退に向かうと考えられます。もちろん、どんな利上げもいつかは「打ち止め」になります。


実際、FF金利先物は、今後の利上げの「一時停止」を「打ち止め」と見込み、「利下げ」が後に続くと考えています。「2年-5年金利」や「3年-5年金利」の逆転現象もこれに相当します。(打ち止めの後に景気後退がすぐに続いた)「89年型・00年型・06年型」を見込んでいると言えるでしょう。

しかし、大幅調整も景気後退が避けられた(→先延ばしになった)ケースもあります。

(金融市場のショックに対して、積極的な利下げや据え置きで対応し、当座の景気後退入りを免れた)「87年型・98年型・15年型」です。1987年10月のブラックマンデー、1998年8月のロシア・LTCM危機、2015年8月から2016年1月にかけてのチャイナ・ショックでは、それぞれ積極的な利下げや、利上げの一時停止が、株式市場の歴史的な調整、ISMの50割れ、鉱工業生産の減少、長短金利差の逆転などにも関わらず、景気後退を避けられています。

「今回は違う(This time is different)」との考えは、金融市場では避けられるべきですが、「今回」が、「89年型・00年型・06年型」なのか、「87年型・98年型・15年型」なのかで、変わるため、弱気派は最後の最後まで気が抜けません。