利上げは「打ち止め」か? 私のパウエル評

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/12/4 | 重見 吉徳

最近聞かれるのは、

  1. パウエル議長が「(まもなくの)利上げ打ち止め」を示唆した。
  2. 過去を見ると「利上げ打ち止め」は「株価のピーク」に近い。

という接続です。

上記2は(データですから)正しいものの、1は正しくないと思われます。

1を正しく言えば「パウエル議長は、今後の利上げはデータ次第、と示唆した」です。

利上げは(データ次第なわけですから)、データが強ければ、来年もこのまま途切れずに続くかもしれません。一方、FRBがたとえこの先、利上げを見送ったとしても、「打ち止め」と決め打ちせず(まずは)「一時停止」と捉えるべきでしょう。

(ここから2つの段落は、ややこしいですから、注意して読まれてください。申し訳ありません)

ここで、改めて2を考え合わせると、「利上げがまだ打ち止めではないなら、株価のピークはまだ先では?」と思われるかもしれません。強気派は喜ぶかもしれません。

しかし、筆者が言っているのは=パウエル議長の主張を正しく解釈すれば、真偽を考えるべき主張は「利上げがデータ次第ならば、株価のピークはまだ先」というものであり、この主張は必ずしも真ではありません(→データ次第ですから、弱いデータが出れば、実際に打ち止めになってしまうかもしれないし、であれば、株価はピークを付けるかもしれない)。

ちなみに、筆者は、「企業債務の積み上がり」や「パウエル議長の考え方」から、株価はそう大きくは上がらないのではと考えています(→これはただの予想です)。

マーケットでは昨日から、2-5年、3-5年がインバート(逆転)して、2-10年も大きくフラット化しました。マーケットも1と解釈しているようです。もちろん、データ次第ですから、「このままフラット化→インバート→利上げ打ち止め→株価ピーク→景気後退」となるかもしれません。

ただ、「そんなことは誰にもわからないだろう」というのが、パウエル議長の考え方なのです。



パウエル議長の考え方を、8/24ジャクソンホール(*1)、10/2全米企業エコノミスト協会第60回年次会合(*2)、11/28ニューヨーク・エコノミッククラブ(*3)の講演から、読み解くと次のようにまとめられます。

  • 基本観:世の中は不確実性に満ちている(*1)。
  • 例えば『中立金利』ひとつとっても、それを正確に計測できる人はどこにもいない(*1)。
  • 実際、『大インフレ期』や「1990年代後半」には推計を誤り、しかも『大インフレ期』には金融政策を間違った(*1、→もちろん、この事後的な再推計が正しいことを前提としている。)
  • 現状をとってみても、もしかしたら、
    • 自然失業率は、FRBや他の専門家の推計よりも、もっと低いかもしれない。だとすれば、今までの引き締めが過剰であることになる(*2)、
    • あるいは、実際の失業率は推計どおり、自然失業率を既にクロスしていて、50年ぶりの失業率の低水準は“フィリップス・カーブのリベンジ”を呼ぶかもしれない(*2)。
    • もしくは、1990年代後半のように、賃金が上がっても、生産性の伸びが、実質賃金のみを押し上げ、インフレ率は安定するかもしれない(*1および*2)。
  • 自然失業率の推計に「不確実性」があり、結果として、自分のアクションがどのような影響を持つかわからないとき、なおかつ、インフレ期待がアンカーされている世界では、慎重に行動したほうがよいだろう(*1)。→『ブレイナードの原理』
  • 確かに、インフレ率がアンカーされていない世界では、『テイラーの原理』が示唆するように、インフレ率の上振れや需給ギャップの拡大以上に、政策金利を引き上げなければならない(*1および*2)。
  • 一方で、インフレ率がアンカーされている世界では、現実のインフレ率が多少上がったとしても、家計や企業、金融市場は、中銀が適切な政策姿勢を持つだろうと考える(→それがアンカーの定義である)。人々が、インフレ率が持続的に上がる世界を予想しないのならば、人々は(ある意味、余分な)賃上げを要求したり、値上げを迫られたりすることはない。つまり、中銀の大胆な行動は必要とされなくなるし、「もう1会合様子見しよう。インフレ率が上がるならば、利上げを開始すればよい」というスタンスで臨むことができる(*1)。
  • 加えて、大事なこととして、インフレ率がアンカーされていることで、「失業率や需給ギャップの変化がインフレの変化を招く」ことが小さくなっている。いわゆる「フィリップス・カーブのフラット化」である。労働市場とインフレ率の関係が緩やかになっているならば、インフレ率を見ていても、労働市場の需給引き締まりを示す手がかりを得られにくいかもしれない。我々は、様々な指標を見るべきだろう(*2)。
  • こうした考えを、現在の具体的な政策対応に読み替えれば、おそらくはある程度は(正しい位置がわからない)中立金利に近づいていると考えられるし、だとすれば「段階的な引き上げ=継続的な利上げ」はもはや適切ではなく、「データ次第」に変更すべきだろう(*3、11月のFOMC議事録もそう)。
  • 「低失業率と低インフレの共存」と、こうした理想状態が持続するとの、FRBやマーケット・エコノミストの見通しは、確かに、今までになかった状態である。そして、「今までとは違う(This time is different)」と言い始めると間違うことがあるため、それも注意深くみていかなければならない(*2)。
  • 完全雇用と物価の安定が確保されているならば、むしろ見るべきは、金融市場の不均衡ではないか(*1)。→Fed's viewというより、幾分BIS's view。

筆者には、パウエル議長を貫いているのは不確実性の考え、に思えます。「わからないことをわかっている」、ソクラテスの『無知の知』にも喩えられますが、もしかしたら、ジェイ・パウエル氏は、最強のFRB議長かもしれません。



ここで、もしかしたら、ではなぜ、「中立金利とは何ぞや」と考えるパウエル議長が、11/28の講演では「中立金利をわずかに下回る」と言ったのか、という疑問が浮かび上がるかもしれません。それは、みんなが知っている、みんながそればっかり追いかけている流行(はやり)言葉であり、評論家にとっては心地の良い専門用語だからでしょう。

「動く標的」である『中立金利』を追いかけるくらいならば、それを計測するために用いられる(構造要因も反映される)労働市場やその他の様々な指標そのものを追いかけることで十分であるように思えます。