その安心感はそれでよいのか?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/11/29 | 重見 吉徳

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、昨日の講演で「現在の政策金利は、中立水準をわずかに下回る」との見方を示しました。言い換えれば、政策金利は、実体経済の長期的な安定成長にとって「高過ぎず、低過ぎない水準」に近づいているということです。

昨日の米国の株式市場は、これを「利上げの打ち止めがもうすぐ」と解釈したためか、株価は大幅上昇となりました。

ただし、「政策金利の中立水準への到達が、引き締めの終わりを意味するわけでは決してない」ということに注意が必要でしょう。

筆者のこの主張は、次の2つの観点に分けて考えることができます。

  1. 政策金利はたいてい、中立水準を超える
  2. 利下げしない限り、引き締めの状態は維持される

①まず1つ目ですが、政策金利はたいてい「時間のラグ」のために、中立水準以上に引き上げられます。言い換えれば「政策金利の中立水準」は必ずしも「打ち止めの水準」とは限りません。

FRBはおそらく世界でも米国の景気動向を最も精緻に観測している機関のはずです。しかしながら、その彼らとて、経済の現状に関する認知には「時間のラグ」を持ちます(→認識が遅れます)。また、認知をして、政策の変更を議論・判断をし、実行に移すまでにも「時間のラグ」を伴います。

さらに重要なこととして、金融政策の変更は、多くの市場参加者が「利上げが必要だ」あるいは「利上げもやむを得ない」という共通認識を持つ必要があります。たとえ、FRBによる米国景気の認識が「世界最速」だとしても、多くの人が経済の過熱を認識できない(→そう確信を持てない)うちに、利上げの開始を試みれば、家計や企業、あるいは金融市場の信頼感を得られない(≒金融市場がネガティブに反応してしまう)恐れがあります。

つまり、利上げの開始は遅れがちで、その分、インフレ圧力が残る結果、政策金利が中立金利以上に引き上げられる≒金融政策が「引き締め」の状態に置かれると考えられます。利上げの開始が遅れる分、終了も後ずれするということです。

この「時間のラグ」に起因する金融引き締めの開始と終了の遅れが、景気循環(景気の過熱と後退;ブームとバスト)をもたらす要因の一部となっている可能性があります。

今回も利上げの初動やその後のペースに遅れを伴っているとすれば、仮に中立金利の水準で止めると、その後にインフレ圧力がくすぶったり(→理論的にはそうです)、また、そのように市場で解釈されたり恐れがあります。

前回の利上げサイクルにおいては、FRBは2006年6月で利上げを打ち止め、金融市場はその直後から、来たるべき景気後退を織り込むように、2年国債利回りも10年国債利回りもFRBの政策金利よりも低く推移しました。しかし、FRBが政策金利を据え置いている間に、インフレ懸念が再燃し、「FRBは利上げを再開するのでは」という一部の観測から、米国国債利回りが再び上昇に転じたことがありました。

出所:S&P Dow Jones Indices LLC、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2018年11月29日時点で取得可能な最新のものを掲載。


ですから、実際にはこのまま利上げが継続されたり、いったん様子見に転じた後に、再び利上げが始まったりする(あるいはそのような観測が生じたりする)可能性には、十分な注意が必要です。それはやがて、金融市場にネガティブな影響をもたらすでしょう。


②もう1つは、たとえ打ち止めをしたとしても、利下げに転じない限り、実体経済や金融市場は(以前よりもかなり高い金利水準の下で)引き締めの圧力を受け続けるということです。

ここで、金融政策に精通されている方は、「中立水準までの利上げは、引き締め圧力をもたらさない」とおっしゃるかもしれません。確かに定義ではそうです。

しかし、だとすれば、なぜ、株式市場や社債市場、あるいは原油市場はここまでの売り圧力を受けているのでしょうか。政策金利の現在の水準は、金融市場にとっては、既にかなり高いのかもしれません。このままの政策金利の水準が長く続くだけで、金融市場にとってはネガティブな影響をもたらす恐れがあります。

以上の議論はやや複雑に映るかもしれません。要約すれば、次のとおりです。

つまり、政策金利の現在の水準は、実体経済(財市場や労働市場)にとっては中立よりも低く(→インフレ圧力は小さい)、金融市場にとっては中立よりも高くなっている可能性があります(→調整色が強い)。実は、これは、毎度のことです。


すべてをまとめれば、①まだ利上げは続くかもしれず、②既に、金融市場にとっては引き締め圧力になっている可能性があるということです。

昨日のマーケットの反応とは対照的に、「利上げの打ち止めは、安心材料と呼べるようなものでは決してない」ため、十分な注意が必要でしょう。