世界景気減速期の日本株との向き合い方

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/10/22 | 前川 将吾

皆さんは最近、次のような日本株の見通しをよく見聞きするのではないでしょうか。

『株価は下落していますが、日本企業の利益見通しは堅調です。低下した予想株価収益率(PER)が○○倍まで戻れば(=割安感が解消されれば)、株価は○○年ぶりの高値を回復できるでしょう』

株価は、「1株利益(EPS)×PER」の掛け算で求めることができるため、これは決しておかしな見方ではないように思えます。しかし筆者は、足元のような世界景気の減速期においては、このような見方にあまり頼らないほうが良いと考えています。なぜなら、過去を振り返ると、世界景気の減速期には、①業績見通しの下方修正トレンド(=リビジョン・インデックスの低下トレンド)や、②予想PERの低下トレンドが生じやすいことが確認されているからです。

そこで今回のブログでは、この点も含めた世界景気の減速局面における注意点や投資戦略など、以下の3点について解説していきたいと思います。
<今回のブログの3つのポイント>
(1)世界景気の減速基調が続いているが、“過度な悲観”は不要
(2)しかし、景気減速局面で“楽観”は禁物
(3)景気減速局面では、短期の逆張り戦略が有効となる可能性

【(1)世界景気の減速基調が続いているが、現時点で、“過度な悲観”は不要】

はじめに、世界景気の動向を確認するべく、【図1】でグローバル製造業PMI(3ヵ月移動平均値)を見てみましょう。同指数は、足元で好不況の分かれ目である50を上回っているものの、ピークからは低下していることがわかります。つまり、現在は「世界景気の減速局面が続いている」ということになります。
景気が「減速している」ということは、景気の拡大ペースが以前より落ちてしまったものの、景気拡大自体は継続していることを指しています。そして足元は、世界景気の不況入り寸前まで減速しているような、深刻な状態ではありません。したがって、例えば、「日本企業の利益見通しが“間もなく”減益予想に転じる」、「日本株が“間もなく”弱気相場入りする」などの“過度な悲観”は不要と見ています。

出所:Markit、J.P. Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:「グローバル製造業購買担当者景気指数(PMI)」は、J.P. Morgan Global Manufacturing PMI SA。PMIは、購買担当者景気指数を指し、50を超える場合には、過半の企業が「自社のビジネスは拡大」と回答していることを示し、反対に50を下回る場合には、過半の企業が「自社のビジネスは縮小」と回答していることを示す。
データは2018年10月18日時点で取得可能な最新のものを掲載。


【(2)しかし、景気減速局面で“楽観”は禁物】

それでは、世界経済がまだ成長を続け、日本企業の増益見通しもすぐに崩れないのであれば、それを根拠に「日本株は力強く上昇する」と見て良いのでしょうか。筆者は、今の局面では、このような“楽観”は禁物だと考えています。なぜなら、【図2】で示している通り、世界景気の減速局面では、日本株のEPS見通しより先に、株価がピークをつけて下落トレンドに入る傾向が確認できるからです。

出所:東京証券取引所、I/B/E/S、Datastream、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:データは全て月次ベース。2018年10月の株価は2018年10月18日時点、1株利益見通しは、10月15日時点。
データは2018年10月18日時点で取得可能な最新のものを掲載。過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。


ではなぜ、増益見通しが続く状況下で、株価はピークをつけてしまうのでしょうか?この背景には、景気減速期に見られる、①業績見通しの下方修正の増加傾向(=リビジョン・インデックスの低下トレンド)や、②予想PERの低下トレンドがあります。もう少し噛み砕いて解説するとすれば、「世界景気は“まだ”拡大し、増益基調も“まだ”崩れないだろう。しかし、思っていたほど高い増益率が見込めなくなり(→業績見通しの下方修正トレンド)、景気や業績の先行き不透明感も以前より増したため、現在の株価水準を正当化しにくくなった(→投資家心理の悪化;PERの低下トレンド)」ということになります。
これを「株価=EPS×PER」という計算に当てはめて考えれば、景気減速局面では、予想EPSの上昇継続が株価の押し上げ要因として働く一方、予想PERの低下トレンドが株価の押し下げ要因になることで、「株価が上がりにくい状況」が生じやすいと整理することができるでしょう。そして、だからこそ、冒頭の『日本企業の利益見通しは堅調です。低下した予想PERが○○倍まで戻れば、株価は○○年ぶりの高値を回復できるでしょう』といった見方は、今は避けたほうが良いと考えることができるわけです。
ここで、【図3】と【図4】を見て下さい。やはり、赤色で示している世界景気の減速局面では、日本株のリビジョン・インデックスや予想PERが低下トレンドを辿る傾向があることがわかります。しかし同時に、「例外」があることもわかります。それは、2014年10月に日銀が追加緩和(黒田バズーカ第2弾)を実施した後、“一時的に”リビジョン・インデックスと予想PERが上昇傾向となった局面です。この時は、日銀の追加緩和によって、為替レートが1ドル=100円台後半から1ドル=125円程度まで大幅に円安が進行したことで、世界景気の減速という逆風を“一時的に”跳ね返すことできたという背景があったと考えらえます。

出所:東京証券取引所、Factset、J.P. Morgan Asset Management
注:「リビジョン・インデックス」、「上方修正の銘柄数」、「下方修正の銘柄数」は、今期予想利益、暦年ベース、アナリスト予想集計値。データは月次ベースで、2018年10月のデータは、2018年10月12日時点のもの。
データは2018年10月18日時点で取得可能な最新のものを掲載。

出所:東京証券取引所、I/B/E/S、Datastream、J.P. Morgan Asset Management
注:データは月次ベースで、2018年10月は2018年10月18日時点のもの。
データは2018年10月18日時点で取得可能な最新のものを掲載。


【今後の日本株の見通しは?】

2014年のような日銀の追加緩和という「例外」に、もはや期待することはできないでしょう。したがって、世界景気の減速局面が続く限り、日本株のリビジョン・インデックスや予想PERは、短期的に上昇したとしても長続きせず、また低下トレンドに戻る可能性が高いと見ており、日本株の上値も重いと考えています。それでは、世界景気が昨年のような加速基調に戻る可能性は無いのでしょうか?筆者は、(A)米連邦準備制度理事会(FRB)を筆頭に、世界的な金融引き締めが続き、(B)中国経済の緩やかな減速基調も続くという見通しに変更がない限り、世界景気が再加速する可能性は低いと見ています。
ただし、逆に言えば、(A)米国景気が過熱気味であるにも関わらず、なぜか賃金や物価が伸び悩み、FRBも金融引き締め姿勢を和らげる(=米国の『適温相場』の再来)、(B)中国政府が大胆な追加の景気刺激策を発動するとともに、米中貿易戦争の一時停戦が実現する(=中国を筆頭に『強い新興国』が戻ってくる)など、筆者の想定外の状況が起きれば、日本株の見通しを強気に引き上げる必要が出てくるかもしれません。

【(3)景気減速局面では、短期の逆張り戦略が有効となる可能性】

それでは、景気減速局面では、どのような日本株の投資戦略を採れば良いのでしょうか?その一例としては、短期の視点で逆張り戦略を活用する、中期の視点でディフェンシブ銘柄や高配当銘柄を選好する、などが有効と考えています。
中期の戦略はまたの機会にご紹介するとして、今回は、短期の逆張り戦略について取り上げたいと思います。短期の逆張り戦略は、「景気減速局面では、投資家が一喜一憂しやすい」という傾向を利用したもので、筆者が5月17日にアップしたブログ『景気減速局面の日本株の特徴と対策を知る』で詳しくまとめています。そして、この戦略の有効性は、今回の景気減速局面でも確認されています。
例えば、今年3月以降のパフォーマンスを基に、「TOPIXが前月に下落した場合のみ、翌月投資を行った場合のリターン(+8.8%)」は、「ずっと投資をしている場合のリターン(-0.7%)」を上回っています*。また、同じ期間で、TOPIX33業種のうち「前月下落した業種に絞り込んで、翌月投資を行った場合のリターン(+11.6%)」は、「前月上昇した業種に絞り込んで、翌月投資を行った場合のリターン(+0.6%)」を上回っています**。
「世界景気は減速(→不安)しているものの、不況入りが目前に迫っている状況ではない(→安心)」という環境が当面続くと想定した場合、投資家が一喜一憂する傾向も、しばらく続くかもしれません。そのような環境下では、一喜(=楽観)も、過度な一憂(=過度な悲観)もせず、短期の逆張りを続けるという戦略も一案ではないかと考えています。

*グローバル製造業PMI(3ヵ月移動平均値)が今年の2月にピークを付けたことから、3月以降を景気減速局面としている。価格リターン。売買コストなどは考慮していない。10月のデータは、10月18日まで。過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。
**対象となる業種に対して、毎月月初に、等分ウェイトで投資をすることを繰り返した場合のリターン。前月に全業種が上昇(下落)した場合、逆張り戦略(順張り戦略)では、翌月は全く投資をしない。価格リターン。売買コストなどは考慮していない。10月のデータは、10月18日まで。過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。