7つのブーム:その7 テクノロジー・ブーム

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/6/12 | 重見 吉徳

筆者は、現在の金融市場が次に挙げる「7つのブーム」で支えられている、と考えています。

1. 流動性ブーム
2. 生産効率化ブーム
3. M&Aブーム
4. 自社株買いブーム
5. レバレッジ・ブーム
6. テクノロジー・ブーム
7. ETFブーム

既に、お気づきのとおり、これらは互いに独立しているわけではなく、一方が他方を生み出していたり、互いに作用し合ったりしていると考えられます。いずれにせよ、これらは現在、それぞれの壁に直面しており、「7つのブーム」は「7つのリスク」に姿を変えつつあると、筆者は見ています。強気派にとっては「時間の問題」ですが、弱気派にとっては「時間こそが問題」と言えるでしょう。

本稿では、上記6の「テクノロジー・ブーム」について、考えてみます。


6. テクノロジー・ブーム

情報技術(IT)やインターネット小売などのテクノロジー・ブームは、次のような壁に直面すると考えられます。

まずは、時価総額の壁が考えられます。既に述べたとおり、S&P500指数の時価総額全体のうち、テクノロジー株式(情報技術セクターとインターネット小売セクター)が占める割合は、直近時点で30.0%であり、2000年8月(33.6%)以来の高水準に達しています。しかも、このうちの半分近くを、FAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグル(アルファベット))の5銘柄だけで占めています(13.0%)。

次に「10年の壁」が考えられます。世界株式の代表的な指数であるMSCIオール・カントリー・インデックスを見ると、2017年末時点では上位10銘柄で指数全体の9.7%を占めますが、そのうち7銘柄がテクノロジー株式です(→同指数の基準どおり、アルファベット(グーグル)のクラスA株式とクラスC株式を別にカウント)。

この指数で、1998年から2007年の各年末時点の時価総額上位10銘柄を追うと、その10年後(2008年から2017年)も上位10銘柄に残ったのは平均すると3.7銘柄であり、指数をアウトパフォームしたのは平均すると2.1銘柄に限られます。この経験則に従えば、昨年末時点で投資資金の9.7%(=世界株式指数の9.7%)を投じている上位10銘柄のうち7.9銘柄は市場に負けることになります。

個別で考えると、デジタル広告やデータ販売に依存する一部のテクノロジー企業は、規制の壁にぶつかりつつあります。こうしたテクノロジー企業の社会的な存在が大きくなり過ぎている恐れがあります。先の時価総額比率でもその存在感がわかりますが、現状は「デジタル独占」とも呼ばれ、一部のテクノロジー企業は、スマートフォンの使用履歴のトラッキング(追跡)によって、趣味や嗜好の傾向のみならず、起床や就寝の時刻や場所、誰と誰が一緒に住んでいるかも把握しているとされます。

欧州連合(EU)は、5月25日から一般データ保護規則(GDPR)を施行し、企業による個人情報の取り扱いに規制をかけました。これは、他の地域の先駆けとなる可能性があるし、デジタル広告やデータ販売に依存するテクノロジー企業の業績拡大余地を制限する恐れもあります。

過去には、1992年12月に米環境保護局(EPA)がタバコの煙を発ガン性物質と認定し(→同年夏頃からその観測が高まり)、2015年7月にオバマ大統領がバイオテクノロジーの規見直しの覚書を出したことで、それぞれの株式セクターが市場全体をアンダーパフォームするきっかけと言われています。

次に、インターネット小売業は、マクロ経済の壁にぶつかります。例えば、アマゾンの小売事業は、店舗型企業から売上高や利益を奪っているわけですが、やがては、あらゆる小売企業がeコマース(電子商取引)に参入するわけです。すると、商品やサービスを販売する上でインターネットを使うことは「当たり前」のこととなり(→もはやそうなりつつありますが)、「インターネットを用いる」という点での同社の優位性はなくなります。

また、たとえそのときアマゾンが、価格争力によって他の小売企業を駆逐して独占的な状況になり(→もちろん反トラストの壁も立ちはだかるでしょう)、最近のように会員制サービスの会費を大幅に値上げしたり、あるいは個別の商品を値上げしたりしても、家計は消費金額を増やせるわけではありません。それは所得の伸びに制約されます。これがeコマースの巨人(や先に述べた「M&Aブーム」)の限界です。

また、スマートフォンは、一般家計の購買力低下という壁にぶつかりつつあります。その象徴が、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)X(テン)」の販売低迷でしょう。企業が新製品の価格を引き上げるとしても、一般家計は生産移転や自動化によって、これらの製品の生産ラインから外されています。やがて、売上高の鈍化がマージンの拡大を相殺することになります。

1914年に、ヘンリー・フォードは、自社の工場労働者の賃金を、それまでの時間当たり2.5ドルから、その2倍の5ドルに一気に引き上げました。この1つの理由は、単純労働に苦しむ従業員の「歩留まり」を引き上げるためですが(→効率的賃金仮説)、もう1つの理由は「自社の従業員が、自社で生産する自動車を買えなければ=その購買力がなければ、自社は発展しないだろう」という考えに基づくものだったと言われています。

「労働者を犠牲にすることで、企業そして資本家が利得を得る」という構図は持続可能とは言えないでしょう。