7つのブーム:その2 生産効率化ブーム

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/6/1 | 重見 吉徳

筆者は、現在の金融市場が次に挙げる「7つのブーム」で支えられている、と考えています。

1. 流動性ブーム
2. 生産効率化ブーム
3. M&Aブーム
4. 自社株買いブーム
5. レバレッジ・ブーム
6. テクノロジー・ブーム
7. ETFブーム

既に、お気づきのとおり、これらは互いに独立しているわけではなく、一方が他方を生み出していたり、互いに作用し合ったりしていると考えられます。いずれにせよ、これらは現在、それぞれの壁に直面しており、「7つのブーム」は「7つのリスク」に姿を変えつつあると、筆者は見ています。強気派にとっては「時間の問題」ですが、弱気派にとっては「時間こそが問題」と言えるでしょう。

本稿では、上記2の「生産効率化ブーム」について、考えてみます。


2. 生産効率化ブーム

生産効率化ブームは、企業による「マージン拡大の追求」のうち、新興国への生産移転や生産自動化の進展を指します。企業がマージンの拡大を追求する理由は、パイの拡大は鈍化しているにも関わらず、資本家が要求する収益率は変わらないためです。

米国の名目経済成長率(5年トレンド、年率)は1980年代半ばの約8%から、直近では約4%にまで鈍化しています。一方、投資家の要求収益率を益回りで参照すると、S&P500指数の益回りは、同じ期間に7%を中心に循環するのみで、低下トレンドは確認できません(直近は約6%)。人口の伸び鈍化や資本蓄積によって、経済成長率や資本の期待収益率の鈍化が進んでも、資本家の貪欲は衰えるためしがないのです。米国の多くの企業が、米国政府に対し、中国への通商圧力を弱めるようロビー活動を行っている背景にも、資本家による利益拡大への圧力があるでしょう。

企業は、トップラインの成長では埋まらないギャップに直面し、マージンの拡大を追求します。米国の1人当たり実質生産量(国民所得)は、1948年を100とすると、直近までに約320に増加しました。他方で、1人当たりの実質賃金は、1971年にブレトン・ウッズ体制が崩壊する直前までは、生産量の増加に沿って上昇していましたが、それ以降はほぼ横ばいで、直近は約180に留まります。労働分配率(国内総所得に占める被雇用者報酬の割合)は、1971年の58.4%をピークに低下トレンドを描き、直近では53.2%まで低下しています。

自由貿易と資本移動の自由、規制緩和を追求する中で、先進国の企業は生産コストの低下を新興国の労働力に求めてきました。その過程で労働組合は弱体化し、さらに最近では、ロボットや人工知能に象徴される自動化投資が顕著です。先進国の労働者は生産性の低いサービス・セクターに移動して賃金は伸び悩みますが、企業や資本家は利益を確保します。生産移転や自動化によるマージンの拡大は、一般家計の購買力低下という壁にぶつかります。その象徴が、一部の新型高額スマートフォンの販売低迷でしょう。企業がマージンと利益を拡大すべく、新製品の価格を引き上げるとしても、一般家計は生産移転や自動化によって、これらの製品の生産ラインから外されています。しかも、自由主義社会は所得の再分配機能を欠くわけです。やがて、売上高の伸び鈍化がマージンの拡大を相殺することになります。

また、購買力の低下に景気循環も合わせれば、貯蓄率の壁も立ちはだかります。米国の貯蓄率は直近が3.1%であり、世界金融危機直前の2005年以来の低水準です。そして、保護主義やポピュリズムも、新興国への生産移転の追求に立ちはだかる壁となる可能性があるでしょう。