景気減速局面の日本株の特徴と対策を知る

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/5/17 | 前川 将吾

われわれはこれから、世界景気の減速傾向と付き合っていかなければならない

昨年の世界的な株高をもたらした「世界同時成長」に、やや陰りが見えます。実際に、世界景気の動向を確認するべく、<チャート1>でグローバル製造業PMI(3ヵ月移動平均値)の推移を見ると、2016年の半ばから始まっていた世界景気の加速局面は既に終わり、足元では減速局面に転じているように見えます。

そして筆者は、世界景気に変調が見え始めた今こそ、今後数四半期(場合によっては数年)に亘って付き合っていかなければならない「景気減速局面」における、(ⅰ)日本株式市場の特徴や(ⅱ)有効な投資戦略について知っておく必要性が高まっていると考えています。

このような問題意識から、今回は<チャート1>で色分けしている通り、世界景気を以下の3局面に区別した上で、それぞれの局面における日本株式市場の特徴を見ていきたいと思います。

1. 青信号:景気の加速局面。グローバル製造業PMIが、ボトムからピークに向けて上昇している。
2. 黄信号:景気の減速局面。同指数が、世界景気の拡大基調(50以上)を示唆しているものの、ピークからは低下している。
3. 赤信号:不況の局面。同指数が、世界景気の後退(50未満)を示唆しており、さらに悪化を続けている。

出所:Markit、J.P. Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:「グローバル製造業PMI」は、J.P. Morgan Global Manufacturing PMI SA。PMIは、購買担当者景気指数を指し、50を超えると「事業は拡大基調」、50を下回ると「事業は縮小基調」、50は「変化なし」を示唆する。調査会社は幅広い企業にアンケートを配り、各企業は新規受注や生産などが前月比で「増加」しているか、「減少」しているかを回答する。調査会社は、「増加」の回答割合から、「減少」の回答割合を差し引いたものを数値化する。「増加」と「減少」の回答割合(回答数)が同じ場合には50とする。
データは2018年5月14日時点で取得可能な最新のものを掲載。



景気減速局面の特徴①:業績が伸びても株価が上がらない

<チャート2>を見てください。こちらは、上記の3つの局面毎に、TOPIXの月次リターンの平均値とその項目別寄与度を見たものです。なお、寄与度については、「株価=予想1株利益(EPS)×予想株価収益率(PER)」で求めることができるため、EPSとPERの2項目に分解して計算しています。

以上を踏まえたうえで、真ん中の景気減速局面に注目すると、他の2つの局面では見られない特徴があることがわかります。それは、「業績と株価の方向性が異なる」ということです。確かに、普段よく耳にする「株価は業績の動向に左右される」という傾向は、景気加速局面(→業績も株価も上がる)と不況の局面(→業績も株価も下がる)では当てはまります。しかし、景気減速局面では、「業績が伸びているのに、株価が上がらない」*という特徴があらわれており、その理由は、緑色で示すバリュエーション(予想PER)の切り下がり**で説明することができます。

この予想PERの切り下がりについては、まさに足元のように、“まだ不況ではないが、以前より景気が弱まった”ということを日々実感せざるを得ない局面では、「現在の高水準の業績見通しが維持可能かどうか」という点に対する投資家の確信度が低下しやすいことをあらわしていると整理できるでしょう。

とにかく、この<チャート2>の結果は、われわれが「足元の業績動向だけを見て株式市場を語ることができない、難しい局面」に足を踏み入れたことを示唆しています。

出所:(左)東京証券取引所、I/B/ES、Datastream、Markit、J.P. Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management (右)東京証券取引所、Markit、J.P. Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:(左、右)期間は、1999年1月から2018年4月まで。(左)計算の関係上、内訳2項目の合計値が、価格リターンと完全には一致しない。
データは2018年5月14日時点で取得可能な最新のものを掲載。
過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。

*景気減速局面における月次の価格リターンの平均値は-0.5%とわずかに下落していますが、同局面において上昇した月の数と下落した月の数は拮抗しています。具体的には、今回の分析対象である1999年以降で、景気減速局面にあたる月は108あり、うち上昇した月が52、下落した月が56となっています。

**直近のTOPIXの予想PERは13.9倍であり、比較的割安な水準と考えることができます。ただし、過去6回の景気減速局面のうち35%の期間で、直近の予想PERの水準を下回って推移していたことを踏まえれば、足元のバリュエーションが更に切り下がる可能性は十分あると言えるでしょう。



景気減速局面の特徴②:投資家は一喜一憂させられやすい

景気減速局面では「相場の方向感が出にくく、投資家は一喜一憂させられやすい」という特徴も確認されます。上の<チャート3>を見てください。【紫色】はTOPIXが「前月に続いて今月も上昇した、もしくは、前月に続いて今月も下落したケース」の割合を示しており、【青色】は「前月は上昇したが今月は下落に転じた、もしくは、前月は下落したが今月は上昇に転じたケース」の割合を示しています。

景気加速や不況の局面では、【紫色】の割合が相対的に高いため、「上昇トレンドや下落トレンドが出やすい傾向」があると言えるでしょう。一方、景気減速局面では、一転して【青色】の割合が50%を超えており、これは「上がったら下がる、下がったら上がる」ということが起きやすくなることを示唆しています。

したがって今後は、「上昇基調に入ったと思ったら反落した」という経験や「下落基調に入ったと思ったら反発した」という経験が比較的多くなる、『一喜一憂相場』が続くと見ています。

それでは投資家は、この『世界景気に黄信号が点灯している局面』、『業績だけでは語れない難しい相場』、『トレンドが出にくい一喜一憂相場』をどのように乗り切れば良いのでしょうか? この点について、これから2つの対策を紹介したいと思います。



景気減速局面の対策①:短期で、逆張り戦略

対策の1つ目は、特徴②で紹介した「トレンドが長く続かない」という傾向を逆手に取り、“短期的な”逆張り戦略を活用することです。<チャート4>では、短期の順張り戦略と逆張り戦略の相対リターンを示しています。棒グラフは、「月間リターンがプラスだった業種の翌月の平均リターン」から「月間リターンがマイナスだった業種の翌月の平均リターン」を引いたもので(注:業種はTOPIXの33業種)、これが0%を上回れば順張り戦略が優位、逆に0%を下回れば逆張り戦略が優位であることを示しています。

局面毎に確認してみると、景気加速と不況の局面では順張り戦略が、景気減速の局面では逆張り戦略が有効となることが示唆されています(→つまり、特徴②で確認した、景気減速局面の「上がったら下がる、下がったら上がる」という傾向は、日本株全体だけでなく、業種単位でも起きやすいことがわかります)。
以上の点を踏まえれば、今後は月単位で「上昇した業種を避け、下落した業種に注目する」という、“短期の”逆張り投資をするのも一案かもしれません。

ただし、当該投資戦略を実践するに当たっては、短期間で売買を繰り返さなければならないため、①(特に個人投資家にとっては)手間や負担が大きい、②売買コストがかかるなどの難点があることに注意が必要でしょう。そこで、次の対策②もあわせてご紹介したいと思います。

出所:(左、右)東京証券取引所、Markit、J.P. Morgan、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
注:(左、右)期間は、1999年1月から2018年4月まで。業種は、TOPIXの33業種。
データは2018年5月14日時点で取得可能な最新のものを掲載。
過去のパフォーマンスは将来の成果を示唆・保証するものではありません。




景気減速局面の対策②:中期的な視点で、ディフェンシブに注目

対策の2つ目は、短期的な上げ下げの繰り返し(=短期の物色動向)を気にかけずに、景気減速局面で“中期的に”、“均してみて”有望と考えられる業種に投資をすることです。

上の<チャート5>を見てください。こちらでは、①【棒グラフ】で景気減速局面における業種別の月次騰落率の平均値を示しているほか、②【業種名のカッコ内】では、過去6回の景気減速局面のうち、平均リターンがプラスだった回数を記載しています。この2つのデータを基にした、有望な業種(→①がプラスで②が4回以上)と、避けたい業種(→①がマイナスで②が1回以下)は、以下のとおりです。

有望な業種:食料品、医薬品、建設業 → ディフェンシブ

避けたい業種:証券・商品先物取引、電気機器、金属製品、機械 → 景気敏感

当該分析の結果に関して言えば、昨年の相場の牽引役だった電気機器や機械が、避けたい業種に入っている点に、注意したいところです。