“足元の”決算好調でも冴えない米国株。背景は“来年の”業績伸び率低下?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/5/1 | 前川 将吾

地政学や貿易を巡るリスクは低下し、決算は堅調に見えるのに、冴えない米国株式

筆者は4月初旬の時点で、①地政学リスクが低下し、②“貿易戦争”への懸念も和らぐことによって、③堅調な米国企業の決算発表に焦点が当たり、「米国株式は、短期的に“力強い”上昇局面を迎える」と見ていました。しかし、蓋を開けてみれば、4月の米国株式の騰落率は(下落しないまでも)0.27%の上昇に止まっています(注:S&P 500の価格リターン)。

どうして、“力強い”上昇局面が見られなかったのでしょうか?上記①~③の株高に繋がる材料の見通しに誤りがあったのでしょうか?
まず①を確認してみると、北朝鮮が非核化に向けた動きを見せたことは好材料で、②の米中の貿易問題については、ムニューシン米財務長官が、貿易摩擦の解決に向けて近く訪中する意向を明らかにしていることが(今のところは)安心材料となっているように思われます。また、③に着目すると、<チャート1>で米国企業の2018年の予想増益率の切り上がりを見る限り、“一見”、1-3月期の企業決算ではポジティブ・サプライズが確認されているように見えます。

それではなぜ、米国株式は冴えなかったのでしょうか?その理由として挙げられやすいのは、米国金利の上昇です。これは、4月に発表された米国のインフレ指標が前年比ベースで大幅に伸びたことに加えて原油価格も上昇したため、米国10年国債利回りが上昇し、同時にドル高も進行したことから、「投資家心理の悪化⇒株価の下押し」になったという見方です。

筆者も、米国株式が上がりにくかった背景には、上記の「金利上昇とドル高」があったという見方に賛成です。ただし、それだけではなく、“一見”堅調に見える米国企業の業績に悪材料が潜んでいたことも、株価の下押し圧力になっていたと考えています。

<チャート1>S&P 500:2018年の予想増益率の推移(EPS、前年比、アナリスト予想集計)

出所:S&P Dow Jones Indices LLC、Factset、J.P. Morgan Asset Management
データは2018年5月1日時点で取得可能な最新のものを掲載。



好調な2018年とは対照的に、軟調な2019年の予想増益率

<チャート2>の米国企業の2019年の予想増益率を見てください。決算発表が始まった4月以降の動向を見ると、先ほど確認した2018年の予想増益率の切り上がりとは対照的に、2019年は切り下がり傾向が続いています。そして筆者は、“先”を読みたがる株式市場参加者が、(一定程度“織り込み済み”である)「巨額減税⇒2018年の大幅増益」をさほど重視しなくなる一方、「想定していたほど伸びないかもしれない、2019年の業績」に徐々に注目し始めた*ことも影響して、米国株式が冴えなかったと考えています。

*例えば、株式市場のファンダメンタルズを確認する際によく用いられる、12ヵ月先の予想利益(EPS)を考えてみてください。当たり前のことですが、足元の12ヵ月後は、2019年の5月です。したがって、当該指標は、既に2019年の業績をある程度考慮したうえで算出されているはずですし、これから時間が経過すればするほど、2019年の業績が意識されやすくなるはずです。

<チャート2>S&P 500:2019年の予想増益率の推移(EPS、前年比、アナリスト予想集計)

出所:S&P Dow Jones Indices LLC、Factset、J.P. Morgan Asset Management
データは2018年5月1日時点で取得可能な最新のものを掲載。



2019年の予想増益率を押し下げたセクターとは?

<チャート3>で、セクター別の2018年と2019年の予想増益率の変化幅(4月)を見てください。【赤色】の2019年に注目すると、2つのことがわかります。まず第1に、足元の決算発表が始まってから来年の増益率が伸びたのは、11セクター中たった2セクターであり、これは【青色】の2018年の9セクターと比べれば大幅に減少しています。第2に、2019年の予想増益率が相対的に大きく低下しているのは、情報技術、金融、資本財といった景気敏感セクターです**。

なお、第2の特徴があらわれ始めることについては、「インフレ率が2%を超えて上昇⇒米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ加速⇒景気鈍化」という見方が足元で強まっていることを考慮すれば違和感はなく、実際に6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、年内の利上げペースが3回から4回に引き上げられる可能性も十分あると見ています。

**同3セクターの4月のリターンが米国株式全体に劣後していることからも、株式市場の参加者が、【赤色】の2019年の業績の伸び率の変化に注目している可能性があることが伺えます。

<チャート3>S&P 500:2018年と2019年のセクター別予想増益率の変化幅(4月)

出所:S&P Dow Jones Indices LLC、Factset、J.P. Morgan Asset Management
データは2018年5月1日時点で取得可能な最新のものを掲載。



PERの低下基調が続く可能性が高い中、2019年の予想増益率が下げ止まるかを注視したい

4月10日のブログで記載した通り、筆者は、今後FRBが金融引き締めを強化する中で投資家心理が悪化し(≒カネ余りの状況が終わり)、米国株式の予想株価収益率(PER)の低下トレンドが続くと予想しています。したがって、米国株式が上昇基調を保つためには、予想PERの低下を補えるほど予想利益(EPS)が上昇していく必要がある***と見ており、この観点からも、景気敏感セクターを中心に、2019年の予想増益率が下げ止まるかどうかを注視したいところです。

***株価は、予想PER×予想1株利益(EPS)で求められます。