関税をかければ貿易赤字は減るのか?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/3/27

米国の保護主義によって、米国の貿易赤字は減るのでしょうか。保護貿易のための手段としては、例えば「a) 輸入関税の引き上げ」や「 b) 輸入量の割り当て」が挙げられます。

経済学の標準的な議論に基づけば、「保護貿易措置は貿易収支の水準に影響を与えない」(=保護貿易によって貿易赤字は減らない)とされています(*1)。

これを現状になぞらえれば、トランプ政権による関税の引き上げや輸入制限は、トランプ政権が目指す「貿易赤字の削減」には寄与しない恐れがあると言えます。

実際には、トランプ政権は「米国による輸入を減らす」というよりも、「米国の輸出を拡大させる」ことを優先課題として考えているようです。言い換えれば、トランプ政権による関税の引き上げや輸入制限は、特に中国の国内経済を、米国企業に対して開放させるための「脅し」である可能性も考えられます。


では、なぜ「保護貿易措置によって貿易赤字は減ることはない」そうなのでしょうか。数式を使わずに、経済学の議論が導くところを説明します。

例えば、日本が米国からの輸入を半分に減らすとします。その方法として、a) 一部の米国製品に対する関税の大幅引き上げによってこれらの製品価格を国内価格よりも割高に設定しても構いませんし、b) 一部製品の輸入量を一定の水準に制限しても構いません。

すると、特定の米国製品を買うことがなくなりますから、その分だけ、円をドルに換える必要がなくなります。これは、輸入制限前に比べると、輸入代金の減少分だけ、ドル買い・円売りが減ることを意味します(*2)。すると、その分だけ円はドルに対して上昇します(*3)。円高になれば、日本の輸出が減ります。このように、輸入制限は、自国の為替レートの上昇を通じて、自国の輸出を減らします(*4)。


今の話題は米中関係ですから、これを米国と中国の関係に置き換えて考えてみましょう。

米国が中国からの輸入を半分に制限するとすれば、その分、「中国」はドルを「受け取る」ことがなくなります。これは、米国による輸入制限前に比べ、中国によるドル売りが減ることを意味します(→中国の輸出企業は、米国の輸入企業から代金として受け取ったドルを人民元に換え、原材料を購入したり給料を支払ったりして運転資金に充当します)。すると、輸入制限前に比べると、その分だけドルは人民元に対して上昇します(*3)。ドル高になれば、「米国」の対中輸出が減ります(*5)。


次に、為替レートではなく、物価で考えてみましょう(*6)。同じ結論を導き出すことができます。

米国が中国からの輸入を(例えば)半分に制限するとすれば、輸入中国製品の「供給」が途絶えるため、米国国内生産製品への「需要」が高まり、米国の国内物価が上昇します。米国の物価が上昇するということは、中国から見ると、米国の製品価格が高くなるということですから、米国製品への需要=中国による米国製品の輸入が減ります。米国にとってみると、対中輸出が減るということです。「米国による中国製品の輸入制限によって、米国の対中輸出が減る」ことから、為替レートのケースと同じ結論が導き出されます。

シンプルな経済モデルによれば、輸入制限は、貿易収支を変化させないとされています。この点については、例えば、『マンキュー マクロ経済学I入門篇(第4版)』の「第6章 開放経済」(N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之訳、地主敏樹訳、中谷武訳、柳川隆訳;東洋経済新報社)を参照されてください。(重見 吉徳)


*1 ひとことで言えば、一国の貿易収支は、一国の貯蓄と投資の差額によって決定されるためです。

*2 ここで「貿易はドルで決済される」と考えています。この点は重要なポイントなのですが、また別の機会に書きます。忘れたらすみません。

*3 ここで、為替市場では貿易決済に基づく売買のみ実行されると仮定しています。為替市場の現実とはかけ離れた仮定ですが、ファンダメンタルズによる為替レートの動きを考えるためには重要です。

*4 加えて言えば、ドル安・円高によって、米国製品の円建て価格が下がることから(→海外のブランド製品が安く買えるのと同じ)、輸入制限を免れた米国製品に関する日本の輸入が拡大します。

*5 また、ドル高になれば、輸入制限を免れた中国製品に関する「米国」の輸入が拡大します。ただし、実際には、中国当局は、中国の輸出企業によるドル売り・人民元買いの動きを放置すると、人民元が大幅に上昇して、中国製品の国際競争力が失われると考えていたために、中国の中央銀行(人民銀)は、過去の長い期間にわたり、ドル買い・人民元売りを継続的に行って、人民元相場の大幅上昇を抑制する為替操作を行っていました。現在は、幅広い通貨(通貨バスケット)に対して、人民元レートを変動させる管理フロート制を採用していますが、これも為替レートの動きを管理しようとするものです。

*6 正確には、「国内物価/海外物価」で表される相対物価・相対価格です。為替レートも交換比率ですから、為替レートと相対物価には似たような働きがあります。両者を合わせて考えたのが実質為替レートです。