トランプ大統領が目指す、「巨額減税と貿易赤字削減の両立」は困難?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/3/15

トランプ米大統領は、幅広い中国製品への関税引き上げを検討しているほか、14日には、中国に対米貿易黒字を1,000億ドル減らすよう求めたようです。このような保護主義的な姿勢は、「世界貿易の停滞に繋がる」という点で、通説では危惧すべき問題とされていますが、今回のブログでは、トランプ大統領が目指す巨額減税と貿易赤字削減の両立は困難ではないかという点について書きたいと思います。

この両立がなぜ困難であるかを確認するために、「貯蓄投資(IS)バランス」というマクロ経済学の考え方を見てみましょう。

<貯蓄投資(IS)バランス>
①民間部門の収支(貯蓄-投資) + ②政府部門の収支(歳入-歳出) = ③貿易収支(輸出-輸入)

この貯蓄投資バランスの式は、定義上「必ず成り立つ」ということが重要な点であり、「一国全体(民間部門と政府部門)の貯蓄と投資の差額が、その国の貿易収支に一致する」ことを示しています。このことをイメージしやすくするために、①~③の各項を、米国の現状に照らし合わせて考えてみると、次のとおりになります。

①米国の民間部門は「貯蓄超過」(→主に家計)です。しかし、②米国政府の「財政赤字」を賄えるほど、民間部門の「貯蓄超過」は十分にありません。言い換えれば、「米国全体で見ると貯蓄不足」ということになります。従って③については、トランプ大統領が問題視する「貿易赤字」が発生しています。といった具合で、(左辺)=(右辺)が成立していることがわかります。

以上の点を踏まえたうえで、今年から実施されている巨額減税が、この貯蓄投資バランスにどのような影響を与えるのかを考えてみましょう。まず、②の政府部門の収支については、減税によって歳入が減少し、財政赤字が拡大します。一方で、①の民間部門の収支に関しては、貯蓄超過額が増加するでしょう。それでは、②と①の効果を合計した結果、米国全体で見た場合の収支はどうなるのかというと、貯蓄不足が拡大するでしょう。そのように考える背景は、以下のとおりです。

・例えば、減税で政府の歳入が10減る場合、その10は、民間部門の所得の増加につけ変わります。
・民間部門では、追加的な10の所得増加のうち、例えば6を消費の増加にあて、4を貯蓄の増加にまわすとしましょう。
・すると、政府部門と民間部門の合計で見た追加的な米国の貯蓄不足は、-10(→歳入減少)+10(→民間所得増加)-6(→消費増加)=-6(→貯蓄不足の拡大)となります。

この巨額減税による「米国全体の貯蓄不足の拡大」は、ISバランスの(左辺)の減少を示しているため、(右辺)の減少、つまり「貿易収支の赤字拡大」をもたらします。
このことから、トランプ大統領が目指している「巨額減税と貿易赤字の削減の両立」は困難であるどころではなく、既に実施された巨額減税は、米国の財政と貿易収支の悪化(=「双子の赤字」)をもたらす可能性が高いと考えられます。

(前川 将吾)


米国の貯蓄投資(IS)バランス

出所:米経済分析局(BEA)、全米経済研究所(NBER)、Bloomberg Finance L.P.、J.P. Morgan Asset Management
データは2018年3月2日時点で取得可能な最新のものを掲載。