なぜ利上げで、長期金利は上がらず、資産価格は上昇する?

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/2/28

昨年までの金融市場では、良好な経済指標が出ると利上げ見通しが強まって、①短期金利が上昇、長期金利はさほど上がらない(→結果として低位安定が続く)イールドカーブのフラット化*が進んできました。またこれと同時に進んだのが、②リスク資産価格の上昇です。

*金利が上昇しながら、イールドカーブがフラット化することを、ベア・フラットニングと言います。


①「なぜ利上げなのに長期金利は上がりにくくなるか」の通例的な解説は、利上げによって実体経済に引き締め圧力が加わることで、「将来の景気は(少なくとも景気の過熱が確認される現時点に比べれば)スローダウンしているだろう」との見方が生じるためです。

2年金利は、向こう2年間の政策金利の平均値、あるいは向こう2年間の経済成長率の期待値と考えられます。10年金利はこの「10年バージョン」です。

金利が上がれば、家計の貯蓄が促され、また家計や企業は資金調達を減らすことで、GDPの主要項目である個人消費支出や住宅投資、設備投資は抑制されます。経済活動の(相対的な)停滞に合わせてインフレ率も抑制されるために、「名目経済成長率=実質経済成長率+インフレ率」は鈍化することが予想されます。これらが長期金利の価格決定に影響を与えます(→この場合、長期金利の上昇を抑制します)。

②ここまで来ると「なぜ先々の景気の見通しが鈍化するのに、リスク資産価格は上昇するのか」という疑問にぶつかります。ここは解釈が分かれる点です。

ある人は「利上げをすることは(さらに先はともかく)足元や目先しばらくの間の景気が堅調なために資産価格は上昇する」と主張するかもしれません。長期の金利は、株式などのより長期の資産価格にとっての割引率であるため、これが低位安定する一方、たとえ目先でも(景気拡大によって)将来のキャッシュフローや利益が拡大すれば、割り引かれた資産価格が上昇すると考えられるかもしれません。

私も決めかねていますが、例えば、次の2つの理由があると考えています。

1つは「見通しが収斂する」ということ、もう1つは「(過去の例に従う限り)利上げが当初は緩慢に留まり、金融環境が緩和的な状況が続くこと」が挙げられます。これら2つは「上昇相場のための必要条件」とも言えるでしょう。

中央銀行はいったん利上げを開始すると、頻繁に利上げしたり利下げしたりして政策金利の方向を変えるすることは困難になると考えられます。なぜなら、頻繁な政策スタンスの変更は、経済活動を混乱させたり、中央銀行への信頼を棄損したりする恐れがあるためです。

1つ例を挙げると、欧州中央銀行(ECB)は、2011年の4月と7月に利上げを実行します。インフレ率が目標である2%を上回っていたためです。しかし、当時既にギリシャ危機は始まっており、イタリアやスペインの国債利回りは上昇を続けていました。ECBは事態の深刻さを見誤ったことに気づき、その3か月後の11月には利下げを迫られます。

ある意味、利上げや金融引き締めにあたっては「いったん利上げを始めれば、しばらくは続けられる」あるいは「利上げをし始めて、すぐに利下げを迫られる恐れはない」というような裏付けや自信、覚悟が必要と考えられるかもしれません。

金融市場は、利上げは(単純に過去がそうであったこともあって)ある程度の期間、続いていくことを予見します。利上げ開始前は「いつ利上げするのか」という点で見方が分かれます。中央銀行の側も、最初の利上げは、その後に続く利上げを金融市場に織り込ませてしまうことや、その後も実際に利上げを続けることを想定しないといけないために、そのタイミングを慎重に見極めます。重要な点を付け加えるとすれば、この時点で、既に最初の利上げは後手に回っている(≒金融市場は緩和的になっている)恐れがあります。

これを逆に考えれば、いったん利上げが始まれば、金融市場の見方も収斂すると考えられます。また、中央銀行は景気の拡大と利上げの継続を確実にするために(→本末転倒な部分もあるかもしれませんが)、利上げをゆっくりと継続していきます。

また、中央銀行が景気拡大の勢いを認知するまでにはラグがあり、認知した後の行動(利上げ)にもラグがあるために、実体経済の勢いに対して金融環境は緩和的になります。

この先は、金融市場の独自の動きですが、金融環境が緩和的になって、実体経済の成長率(≒ファンダメンタルズ)以上に資産価格が上昇すると、期待リターンが小さくなります。言い換えれば、資産価格が上がってしまうために、上昇余地が小さくなるということです。

一方、運用者に資金を預ける投資家の側は(ここが謎ですが)以前とリターンを期待し、これを運用者に要求します。運用者の側は期待リターンが小さくなったにも関わらず、以前と同じリターンを生み出すことを求められますから、期待リターンを高めるために、リスクテイクのポジション(≒スプレッドやキャリーを取る動き)を拡大させます。

筆者は、これらの一連の動きが、利上げでリスク資産価格が上がる要因ではないかと考えています。

やがては、こうしたリスクテイクが、資産価格や利回りに内在される予想ボラティリティ(変動率)やリスク・プレミアムを引き下げていき、スプレッドやキャリーをその根源的リスクには見合わない水準にまで引き下げていきます。チキンレースの様相ですし、(過去は利上げの後に景気後退が続いていることもあって)資産価格はやがて下落します。(重見 吉徳)

Guide to the Markets -Japan- 2018年第1四半期 p6