リスクオンか、単なる換算の話か?歴史は繰り返す

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/2/19

2018年これまでの金融市場の動きを振り返ると、年初から1月後半の『VIXショック』が起こるまでは、「ドル安の裏側で、ユーロや豪ドル、商品・コモディティ、新興国の資産が上昇」を見せていました。この動きは『VIXショック』でいったん巻き戻されましたが、金融市場が落ち着きを取り戻したように見える最近でも再び、ユーロや豪ドル、商品・コモディティ、新興国の株式などが上昇を見せています。

筆者は、この金融市場の動きを「2007年に似ている」と感じています。

【図1】最近の主要な資産価格の動き

2017年12月15日=100、期間:2017年12月1日~2018年2月15日

 

2007年も「ユーロが上がるから原油・商品・コモディティが買われる。コモディティが買われるから新興国が買われる。豪ドルなどの資源国通貨も強い」という動きが見られました。言い換えれば、幅広い資産の価格が順相関を持ちつつ、上昇を見せました。一見、何もかもが買われる「リスクオン」のように見えます。

確かに当時、既に米国の住宅市場では異変が垣間見えたものの、欧州景気の勢いは強く、中国を含む新興国に対する成長期待もあって、実体経済も金融市場も熱狂に沸いていました。ただ筆者は、この動きは「単なる換算の話」であったようにも記憶しています。言い換えれば「ドル安のために換算上、上昇して見えただけ」です。

例えば、ユーロが上昇すれば、ユーロ圏で生活する人々の購買力が上がり、ユーロ圏の人々は(米ドル建てで取引されている)原油やその他の資源を安く買えることになります。すると、安く手当てできるようになった原油や資源(の先物)に買いが入り、これらの価格が上昇します(→例えば、ユーロ・ベースの価格が以前と変わらない水準にまで、米ドル建ての原油や資源価格が上昇します)。原油や資源価格が上がるので、これらを産出する新興国や資源国の価値が上がったとみなされ、これらの地域の株価や為替レートが上昇します。つまり「ドル安が生じていた」だけです。

2007年は、8月に『パリバ・ショック*』で金融市場が大幅に調整しましたが、その後は何事もなかったかのように、再び「ドル安の裏側で、ユーロや豪ドル、商品・コモディティ、新興国の資産が上昇」する動きが続きました。いろんな資産価格が上昇して熱狂が続いていましたが、その裏側では(米国の利下げもあって)ドル安が進んでいたために、ドル円相場はドル安・円高が進み、やがて(低金利通貨を売って、高金利通貨を買う)キャリー・トレードのポジションが損失を出し始め、巻き戻されました。後講釈すれば「ドル円は崩壊の先行指標」でした。

*パリバ・ショックとは、米国の信用力の低い個人向け住宅融資であるサブプライムローン関連の証券化商品に主に投資を行っていた、フランス大手銀行BNPパリバ傘下のファンドが、新規設定・解約の受け付けを凍結したことで、金融市場に混乱が広がった出来事を指します。

【図2】世界金融危機前後の主要な資産価格の動き

2007年1月1日=100、期間:2006年1月1日~2008年12月31日

 

ちなみに昨年の為替市場はドルも円も弱く、資産市場全般ではリスクテイクが進みましたが、この動きは2006年に似ています。

その昨年のドル安は「リスクテイクのドル売り」ですが(→完全雇用の米国から、成長余力がある欧州や、期待リターンの高い新興国にお金を移す)、今年のドル売りは『米国売り』ではないかと疑っています。なぜなら、米国では保護主義や財政悪化の懸念があり、ドルのみならず、米国国債も売られているためです。

筆者は、まだ米国株式はそれに気づいておらず、換算の問題で「ドル安だから米株を買っても大丈夫」と言わんばかりに、株価は回復傾向に戻っていると見ています。ドル売りの「根っこ」が『米国売り』なら、2006年や去年よりも「根が深い」ように思えますし、投機筋にとってみると「ドル売りトレードには安心感がある」と考えられます。

ドル安がリスクテイクであれ、『米国売り』であれ、世界経済をけん引する米国から外に資金が向かっているということですから、上述の様々な資産価格の上昇が終われば、2008年8-11月のように、その一瞬は(今までの資本フローの巻き戻しとしての)ドル高・円高になると見られます。その後は、米国が利下げを行うために、ゼロ金利の日本との金利差が詰まって、ドル安・円高に変わると見られます。

最近でも、米株が大幅に下がるときは、ドル高・円高に回帰しています。これは、昨年に見られた「リスクテイクのドル売り(や円売り)」が巻き戻されているためです(→海外資産が売却され、ドルに資金が回帰するもので、レパトリエーション、レパトリと言われます)。

筆者は、これまでのドル売り・他国資産買いが一気に巻き戻されるときの影響は小さくないと見ています。

「今回、金融市場が調整に向かっても、リーマン危機ほど深刻ではない」という専門家も多くいるようです。リーマン危機前は「民間部門がリスクテイクによって限界までストレッチしている」状態でした。今は「政府部門が金融緩和や債務残高に関して限界までストレッチしている」ように思えます。

この強気相場が崩壊すれば、①「効果的な金融緩和や財政刺激策を打てないのではないか」という悲観が支配したり、あるいは②(財政刺激を強行すれば)「高インフレになるのではないか」という不安につながったりする(→それは実体経済の混乱につながる恐れがあります)、いずれかのパスを辿る可能性もゼロとは言えないでしょう。ケース①の場合にはリスク資産に不安が、ケース②の場合には現金や預金に不安がそれぞれ生じます。

やはり「歴史は繰り返す」と言えるかもしれません。2018年と2007年、2017年と2006年の類似のみならず、インフレの再来、レーガン政権とトランプ政権、『双子の赤字』**もそうです。あるいは、もっと長いスパンで見れば、産業革命とIT革命、格差拡大、保護主義も同様だと思います。

**双子の赤字とは、米国の経常収支の赤字と、財政収支の赤字を指します。

(重見 吉徳)

 

【図1】【図2】新興国株式:MSCIエマージング・マーケッツ・インデックス、商品先物:CRB指数 上記は過去のデータであり、将来の成果を示唆・保証するものではありません。