2018年の変化①「米国の物価:ディスインフレ→インフレ」その 2

ストラテジストのいまを読み解くブログ | 2018/1/25

引き続き、2018年に生じうる変化の1つである、「米国の物価:ディスインフレ→インフレ」について考えてみます。ここで「ディスインフレ」とは、ひとことで言えば、低インフレが継続する状態です。

23日に「物価の見通しを考える上で見るべきポイントは2つ」と書きました。①経済が完全雇用≒フル稼働に近いかどうか、②物価上昇にはラグがある(→景気が良くなり、フル稼働に近づいた後、しばらく経ってから、物価が上がり始める)ということです。

上記②については、23日に検討しました。世界同時好景気は2016年の前半あたりから続いており、他の国や地域に先行すると考えられる米国のインフレ率は反発を見せ始めています。

今日は上記①について考えてみましょう。話はシンプルです。次の【左】のチャートを見てください。

 

 

Guide to the Markets -Japan- 2018年第1四半期 p25



【紫のライン】が米国の失業率です。直近の水準が何パーセントかを覚える必要は全くありません。これを眺めると気づくことは次の3つです。

① 失業率には、なんとなく下限がありそう。
② 失業率は今、下限に近付いている。
③ 失業率は、上限や下限の水準で、何年も横ばいになり続けることはない。上下の動きを止めない。

失業率はやや長く、そしてゆっくりとした景気の循環を示す指標です。直近がどこにあるかを見ると、ほぼ下限に近付いています。つまり、米国の労働市場は完全雇用に近く、働きたいという意思を持つ人のほどんどが働いている状態です。しかも、下限に長い間、居続けることはありません。言い換えれば、景気は「ちょうど良い水準に留まる」ことはできず、言い換えれば過熱をしてしまい、その後すぐに鈍化または悪化方向に反転します。

次に【オレンジの丸点】を見てください。これは、過去に米国が減税や財政刺激策を講じたタイミングを示しています。今回の減税を除けば、過去の景気刺激策は、【水色の網掛け】で示す景気後退期に実施されています。

政府が財政刺激策を講じるということは、政府が実体経済に介入するということであり、通常は、民間部門の家計や企業の経済活動が低調なときに実施されます。景気循環の「谷」をできるかぎり浅くするためです。反対に好景気では、税収が増えることで、景気の過熱を防ぎ、景気循環の「山」をなだらかにすることも考えられます。こうした経済政策(税制を含む)は、「景気循環抑制的(カウンター・シクリカル)」と言われます。

反対に、現在のように、民間部門の経済活動が活発であり、生産がフル稼働に近い状態で、政府が消費や投資を行うと、金利が上昇して民間の設備投資が締め出されたり、為替レートが上昇して輸出が鈍化したりするなど、民間部門の経済活動が抑制されます。フル稼働で、それ以上生産できないわけですから、政府が消費や投資を行って生産物の一部を取ってしまう分、金利や為替レートの上昇によって、(外国部門を含む)民間部門の消費や投資が減ってしまうことで、供給と需要はバランスします(≒生産物を分け合います)。

また、フル稼働に近い状態で、政府が消費や投資を行おうとすると、限られた生産物への需要が増えることで、景気が過熱し、『経済の体温計』である物価に上昇圧力が生じます。すると、景気は不必要な過熱を持ってしまい、インフレ懸念から予期していなかった長期金利の急上昇や利上げの加速などを招き、景況感が悪化に転じる恐れがあります。反対に、景気後退なのに、増税をすれば、景気はもっと冷え込むでしょう。こうした経済政策は「景気循環増幅的(プロ・シクリカル)」と言われます。

適切な経済政策は、「景気循環抑制的(カウンター・シクリカル)」なものでしょう。

過去の減税や財政刺激策は景気後退のタイミングで実施されてきましたから、その中身は別として、タイミングは適切であったと考えられます。一方、今回の減税*は(→向こう10年で財政赤字が約1兆5,000億ドル拡大すると言われています)、経済がフル稼働の時に実施されます。こうなると、景気は無用な過熱を持って、インフレ懸念が生じたり、実際のインフレ率が上昇したりする恐れがあります。

インフレになる場合、その後に来る可能性があるのは、先に述べたような長期金利の急上昇や利上げの加速であり、それは景気を抑制する方向に作用します。

*ただし、今回の税制改革は、景気刺激につながる減税だけではなく、家計や企業、投資家にインセンティブ(動機づけ)を与えて、長期的な経済の実力を引き上げようとする意図も含まれています。(重見吉徳)